「挑戦することに生きている」羽生結弦。だから今季も次戦に期待できる (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登直●撮影 photo by Noto Sunao

 それでも、その経験を糧にして、自分がノーミスの演技をした時にチャンとどのくらいの差があるかを冷静に分析し、その差を埋める努力を続けた。そして、2013年12月のグランプリ(GP)ファイナルでは初めてチャンに勝利した。このプロセスが初出場でのソチ五輪王座獲得につながったのだ。

 そうした一歩一歩の進化から、一気に頂点まで登り詰める飛躍を見せたのは昨シーズンだった。GP初戦だったスケートカナダでは、後半の4回転の難しさを意識し過ぎてしまい、SPでは2要素が0点になるミスで6位と出遅れた。フリーでは後半の4回転を何とか決めて2位に順位を上げたが、1年の休養から復帰したばかりで難易度を抑えた演技構成だったチャンに、フリーでも届かなかった。

 羽生はその悔しさを糧に、SPでは4回転サルコウも入れて4回転を2本にするという、本来は次の段階に予定していた構成に変え、厳しい練習を積み上げた。そして、1カ月後のNHK杯で史上初の300点超えの偉業を果たした。だからこそ、今シーズンもスケートカナダの悔しさをバネにしたNHK杯への挑戦に期待が集まるのだ。

 だが、今シーズンが昨シーズンと違うのは、羽生が左足甲のケガで1カ月半の完全休養を取っていたということ。羽生自身は「ブランクがあったという意識はまったくない」と話すが、昨シーズンのような追い込んだ練習は体への負担が大きすぎるだろう。

 そんな状態で最も重要なのは、SP、フリーとも冒頭に跳ぶ4回転ループの質をどこまで上げられるかだ。ANAの城田憲子監督は「7月には4回転ループも軸が細くて完璧に跳んでいた」と言う。

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る