羽生結弦、世界選手権へ。前日練習での乱れは「吉兆」の表れ (4ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao

 最後に4回転+3回転のトーループ連続ジャンプを決めた羽生は、練習時間を15分以上も残しているにもかかわらず、ジャンプをやめてスケーティングの練習に切り換えた。気持ちが入り過ぎて空回りした自分の心を何とか静めようとするための、短い助走からのトリプルアクセル、3連続ジャンプであり、4回転ループへの挑戦だったのだろう。

 そんな乱れた羽生の表情を見たからこそ、期待が大きくなったのも確かだ。

「特に王座を奪還するということを意識しているわけではないですね。もちろん昨シーズン、銀メダルにとどまったことが練習への原動力になったし、今シーズンこうやって戦ってきた中での原動力になっています。ただこの試合だからこそ金メダルを獲りたいという風に思っているのではなく 毎試合毎試合、同じように最高の結果を目指しているだけです」

 調子のよさ自体は公式練習の動きからも見て取れた。冒頭の4回転サルコウ前後の滑りは、キレだけではなく力強さも加わったものだった。さらにステップシークエンスは、ただ踏んでいるだけではなく、丁寧さに加えて力強さと粘りを強く感じさせる滑りとなっていた。

 前日の公式練習で不満を感じたからこそ、本番では納得のいく演技を見せてくれるのではないか。羽生結弦という選手だからこそ、前日のわずかなミスが、むしろ次への期待をかき立てる要因となった。

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