2016.01.09

震災から5年。羽生結弦と『天と地のレクエイム』の必然的な出会い

  • 副田つづ唯●取材・文

――東日本大震災に対する感情を込めた『天と地のレクイエム』を演じる羽生選手は、松尾さんの目にどのように映りましたか?

「初めて見たのは『ファンタジー・オン・アイス2015』の神戸公演ですが、そのとき、何か強い決意を持たれているのを感じました。羽生選手の演技は、他の選手のそれと明らかに表現が違っていたんです。

 僕はフィギュアスケートについてあまりよく知らないんですけど、このスポーツはアスリートとしての部分と表現者としての部分を併せ持っていますよね。羽生選手は、五輪の金メダリストとしてのプライドもあり、アスリート意識が人一倍強いんだろうと想像しますが、今は技術面よりも芸術性へのウェイトが大きくなっているんじゃないか。

 今後、フィギュアスケートはバレエや能のような究極的な舞いに近づいていって、その転換期における重要な役割を羽生選手は担っているんじゃないか、と勝手に解釈しました。

 日本の伝統芸能である能や歌舞伎も、時代ごとに天才と呼ばれる人物が現れて、形態を大きく変えてきたわけです。フィギュアスケートの世界でもそういうことが起きているのかなぁと。でなければ、『天と地のレクイエム』のような表現はそうできるものではないと思います。あそこまで全身全霊を傾けられるのは、羽生選手が表現者だからなんですよね」

■感動の往来が、生きる糧になる

――表現者・羽生選手の強い思いが届いた先には何があると考えますか?

「"感動"ですね。それは苦しみでも悲しみでもない感情です。人は何があっても、どうにかして生きていかないといけないのですが、そのためのエネルギーが感動なんです。でも、与えるだけじゃないんですよ。羽生選手も語っていましたが、僕ら音楽家も、お客さんの拍手や涙される姿などを見てたくさんの感動をいただくんです。感動の往来が、生きる糧になるんです」