GPファイナルで下剋上を誓う羽生結弦の前進力

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao

「本当に集中できているときは、『今何をすべきか』ということがハッキリ分かるんです。でも、何をしようとしているかちゃんとわかっているのに、それができないという状況は今回が初めてで......。たぶんそれは、無意識のうちにいろんなところへ目が向いていて、自分がすべきことに集中しきれていなかったんだと思います。6分間練習でも、本当はジャッジ側を見なければいけないところでずっと進行方向ばかり見てしまっていたなど、若干の迷いというか、ビビリみたいなものもあったと思います」

 試合が終わった夜は悔しすぎて眠れなかったという羽生。

「ここまでボロ負けしたのは小学生の時以来だから、悔しさもそれ以来のものです。あのころは絶対に勝てない人がいて、一度リンクがなくなって練習時間が足りなくなって、ジャンプが全然跳べなくて『何でだろう』と思ったりしました。

 試合(NHK杯)に出場したことは正しかったと思います。結果はどうあれ、ミスはいっぱいありましたけど、最後まで滑りきったというのは、決して後ろに下がったということではないですから。5日間しか練習できなかったということはあるけど、試合というのは、(毎回)まったく同じコンディションでできるのではないわけですし。そのコンディションに合わせて自分の精神状態をコントロールできなかったというのを思い知らされた大会でした。次へつながると思います」

 心の中では「ソチ五輪や世界選手権優勝は過去の結果でしかない」と思ってはいても、それを頭から完全に消すことはなかなか難しいもの。ただ、今回の敗戦は、そんな思いをうまく整理して、羽生の負けん気をこれまで以上に掻き立てるきっかけになったのではないだろうか。

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