【フィギュア】ソチで荒川静香のイナバウアーを再現したら? (3ページ目)

  • 辛仁夏●文 text by Synn Yinha
  • photo by Getty Images

 このように、選手自身の個性を引き出すことができる技、誰もそう簡単に真似できない技は、たとえ得点に直接結びつかなくても評価を受ける上で大きなプラスに働くことは間違いない。したがって、もしソチで荒川の「イナバウアー」のような際立った個性のあるムーブメント技をした選手には、ジャッジも好評価を与えるのではないだろうか。逆にいえば、荒川の「イナバウアー」をそっくり真似しただけでは、評価に結びつかないかもしれない。

 フィギュアスケートはショートとフリーの2つのプログラムを演技してその合計点で順位が決まる。6点満点ルールだった時代から技を点数化した現行ルールの時代に変わっても、プログラムは単なる技と技の組み合わせではなく、昔と変わらず「芸術作品」と呼ばれ、時には一枚の絵画のように「傑作」や「名作」と称えられる。

 ソチ五輪で男子シングルの金メダル候補であるパトリック・チャン(カナダ)のフリー『四季』は、ジャンプやステップ、スピンなどの技と技の間にも、チャンにしかできない技の数々を詰め込んでおり、見ごたえのあるまさに芸術作品のプログラムになっている。だからこそ、演技構成点で他の追随を許さない高得点をマークでき、それが大きな強みになっているわけだ。

 今季の男子シングルでは、そのチャンと日本の若きエース羽生結弦が、ショートやフリー、そし合計点で世界最高得点を塗り替えてきた。技術点と演技構成点のいずれでも高得点を出せる技術と芸術の両面でバランスのいいプログラム内容で、かつ、多彩な技を披露しながらミスのない演技をした選手だけが、頂点に立つ。そんな可能性を持つ男子選手はチャンや羽生のほかに、日本のエース髙橋大輔や町田樹、ジェレミー・アボット(米国)らがいる。

 ハイレベルな戦いになるというのは、単に高難度のジャンプが多く見られるという意味だけではないのだ。

※技の用語説明は日本スケート連盟サイトから抜粋して参考にした

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