【フィギュア】ソチで荒川静香のイナバウアーを再現したら? (2ページ目)

  • 辛仁夏●文 text by Synn Yinha
  • photo by Getty Images

(注2)基本的なスピンの技は3種類ある。1つは、まっすぐ直立したアップライト系スピンで、片足を軸に、上体を反らした状態で回る「レイバックスピン」や両手あるいは片手でフリーレッグ(軸足でない足)のブレードを持ち、背後から頭上に持ち上げた形の「ビールマンスピン」がそれに当たる。2つ目は、しゃがんだ状態のシット系スピンで、基本形の「シットスピン」は片足で"しゃがんだ姿勢"で回るスピンのこと。フリーレッグをまっすぐ前に伸ばした前傾姿勢になる。そして3つ目は、上体と片足を氷と平行の位置に保ち、T字型になって回るキャメル系スピン。この基本形である「キャメルスピン」を変形したのが「ドーナツスピン」で、フリーレッグを後ろから頭につけ、ドーナツのようなリング状にした身体を水平にする。このように、基本形にバリエーションを加えることによって様々な名前がつく。

 例えば、エレメンツ(技)の一つとして成立するステップシークエンスはステップとターン、さらにいろいろな小技で構成した一連の流れにしたものだが、このステップシークエンスがレベル4と判定されると基礎点は3.9点となる。この3.9点にGOEの加点または減点がつくことになる。

 技と技の間に見せるムーブメント技の「イナバウアー」や「イーグル」にもその技自体に明確な得点はつけられていない。日本スケート連盟のフィギュア強化副部長の竹内洋輔氏は「イナバウアーのように基礎点自体がない技は、いまのルールではコンポーネンツの中にあるコレオグラフィーとパフォーマンスなどの項目で評価されるはず」と解説する。5項目に分かれている演技構成点(プログラムコンポーネンツ)の中にある「トランジション(つなぎの要素)」や「パフォーマンス(演技力)」、「コレオグラフィー(振付)」などで評価されるというのだ。

 トリノ五輪で日本唯一のメダルである金メダルを獲得したフィギュア女子シングルの荒川静香はノーミスの演技が高く評価されてSP3位からの逆転で五輪女王になり、フィギュア史に名を残した。五輪金メダリスト荒川を語るときに必ず出るのが「イナバウアー」というムーブメント技の名前だ。

 荒川の代名詞ともなった「レイバック・イナバウアー」(背中を大きく反らせるバリエーションを加えた技で、荒川が初めて披露した)で美しく滑る姿は、観た者に強烈な印象を与えた。おそらくレイバック・イナバウアーを見せた荒川にジャッジは好印象を受け、その評価は得点に反映されたはずだ。

 だがその荒川が「イナバウアー」をプログラムに採り入れるかどうか、五輪の直前まで迷っていたことはよく知られている。フリーの演技時間は4分。明確な得点にならない技に時間を費やせば、ジャンプなど高得点を狙える他の技のための時間が短くなる。両刃の剣とも言えるチャレンジだったのだ。しかし荒川にとって、フィギュアスケーターとしての喜びを感じる技を封印することは苦痛だった。しかも舞台は、自ら最後と決めた五輪である。結局、荒川はモロゾフコーチの勧めもあり、当初の意志を貫いて「イナバウアー」を滑り、それが奏功することになったのだ。

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