絶対王者チャンとの差を詰めてきた、羽生結弦2年間の成長

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 たとえば、チャンがSPとフリーで3回の4回転ジャンプを入れて連覇を果たした2012年3月の世界選手権で、羽生は3位。フリーの演技だけを比較すれば、ジャンプで大きなミスをしたチャンに羽生は要素点で3点強上回ったが、ファイブコンポーネンツ(芸術要素点)は8点台後半から9点台を出したチャンに対し、羽生は8点台前半で合計で7点強劣り、まだまだ差が大きい状況だった。

 昨シーズンのGPファイナル(2012年12月)こそ、羽生は2位となって3位のチャンを上回ったが、このときはチャンのミスが大きかったため、彼が本来の力を発揮したときにどこまで戦えるのかはわからない部分があった。実際、その後の2013年3月の世界選手権ではチャンが3連覇を達成し、羽生は4位だった。

 しかし、今シーズンに入って、羽生とチャンの距離は縮まってきたように見える。GPシリーズのカナダ大会、フランス大会で、ともにチャンが優勝を飾ったが(羽生は2位)、羽生も力をつけてきていた。

 たしかに、チャンが完璧な演技をして圧勝した11月のフランス大会では、SPでチャンがファイブコンポーネンツを9点台中盤から後半でまとめて96・50点を獲得したのに対し、羽生は7点台後半から8点台前半で81・94点と差をつけられていた。ただしフリーでは、1回転に終わったサルコウと4回転トーループの転倒がなければ、要素実施点ではチャンを上回れるところまで羽生は力を伸ばしてきていた。

 そして、今季12月のGPファイナルで、羽生はついに優勝を飾った(チャンは2位)。とくにSPではファイブコンポーネンツのほぼすべての項目で9点台であり、世界最高得点の99・84点を記録。日本開催ということで単純な比較はできないが、これまで大きな開きのあったチャンとの得点差を着実に詰めた。

 これは、2シーズン前に拠点をカナダのトロントに移し、ブライアン・オーサーの指導を受けるようになって以降、滑りの基本から鍛えなおし、つなぎの演技や表現にも取りくんできた成果が出てきているということでもある。

 今シーズンの羽生のプログラム構成は、演技後半にジャンプを入れることで要素点が高くなるため、そのアドバンテージをうまく活かせれば、絶対王者チャンを上回ることも十分可能だ。そのためにも、冒頭の4回転サルコウを成功させ、余裕を持って演技ができるようにする必要があるだろう。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る