髙橋大輔はなぜシーズン中にプログラムを変えたのか (3ページ目)

  • 辛仁夏●文 text by Yinha Synn
  • 中村博之●写真 photo by Nakamura Hiroyuki

 一方、高橋のフリーはアイスショーでも息の合った共演を見せてくれるシェイ=リーン・ボーンが振付けたオペラ『道化師』。スケールの大きな重厚感のある曲で、エンディングに向けて踊りも音楽も相乗効果となって盛り上がる作品に仕上がっている。冒頭に跳ぶ2度の4回転ジャンプが決まり、中盤から終盤にかけて、湧き起こる情念を込めた振付と音楽がぴったりと合わさったときには、観る者の心の琴線を振るわすはずだ。

 今季からカナダに練習拠点を移した羽生は、バンクーバー五輪でキム・ヨナを金メダルに導いたブライアン・オーサーコーチに師事。「チーム・オーサー」の一員となってプログラムを作ってもらい、飛躍への足がかりとなる大人っぽい作品を手にした。

 SPは表現するのが難しいブルース曲『パリの散歩道』だが、手足の長さを十二分にアピールする振付によって羽生のスケーターとしての特長が生かされている。意欲的なプログラムは好アピールにつながっている。GPシリーズのスケートアメリカで95・07点、NHK杯で95・32点と、歴代最高得点を連続更新してみせたことで、プログラムの評価も一段と高めたに違いない。これを振付けた元世界王者のジェフリー・バトル氏は、振付師としてもその才能を世界に示すことができたのではないだろうか。

 ミュージカル曲の『ノートルダム・ド・パリ』を使用したフリーは、ドラマチックな振付師として有名なデイビット・ウィルソン氏が作りこんだもの。バンクーバー五輪でキム・ヨナを女子金メダリストに導いたプログラム(『ジェームス・ボンド007』)を作った根っからの芸術家肌だ。SPと比べると、四大陸選手権でのフリーはまだプログラムを滑りこなせていない感じが拭えなかった。頂点を狙う世界フィギュアでどこまで完成度を高められるかによって、メダルの色が変わってくるはずだ。

 3番手の座を代表常連の小塚崇彦や織田信成を退けてつかんだ無良崇人のSP『マラゲーニャ』はスペインのタンゴ曲で、阿部奈々美氏の振付。昨季までは上半身や手先から腕の使い方などが「棒立ち状態」で表現力不足に泣いていたが、今季は得意のジャンプが安定した上、課題の表現力を強化、演技面での成長がうかがえる。

 フリーはやはり著名な振付師トム・ディクソンが作った和楽器で奏でられた曲『Shogun』。キレのあるジャンプが映えるプログラム構成になっており、得意のジャンプでミスがなければ、高橋、羽生に引けを取らないはずだ。

 13日(日本時間14日)に行なわれる男子SP。高橋の「一か八かの賭け」、『月光』はどのような結果をもたらすだろうか。

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