髙橋大輔はなぜシーズン中にプログラムを変えたのか (2ページ目)

  • 辛仁夏●文 text by Yinha Synn
  • 中村博之●写真 photo by Nakamura Hiroyuki

「あまり考えたことはないですね。プログラムがないと始まらないですから。ただ、ジャッジや観客など、見る人の中で、いいと思う人が多ければ多いほどいいプログラムになるんだろうし、そういう目で見てもらえればもらうほど、たぶんいい演技ができるのだろうと思う。『あまり好きじゃない』という気持ちで見られていると、それが自然と伝わってくると思うので、見る人の気持ちを掴める素晴らしいプログラムを作ることが大事なのかなと思います」

 それだけに振付師の果たす役割は大きい。ただ、国際審判員でもあり、前フィギュア強化部長の吉岡伸彦氏は「ジャッジの立場から言えば、素晴らしいプログラムを見たときに『誰の振付だろう』という興味はありますが、『あの有名な振付師の作品だから高い点を出そう』とは考えていません。選手の個性、音楽の性格、振付師のアイデアがぴったりとはまった時に素晴らしい作品が出来るのだろうと思います」と語る。

 例えば、いくら有名な振付師にプログラムを作ってもらっても、音楽の選択が外れだったり、振付のアイデアが外れだったりすることも当然あり得る。そのような場合は、シーズン途中で曲を変更したり、前のシーズンで使っていたプログラムに戻したりということもあるのだ。

 本番直前のプログラムの変更が奏功した例として真っ先に思い浮かぶのが、トリノ五輪で金メダルを獲得した荒川静香さんだ。

「演技全体の中でプログラムが4割を占める」という荒川さんは、トリノ五輪前のプログラム変更によって、「自分の気持ちと方向性と理想がすべてマッチして、納得のいくプログラムで自信を持って氷の上に立って滑ることができた」と振り返る。しかし突然の変更は「一か八かの賭け」でもあったという。

 それでも、納得のいくプログラムで滑ることで「自分の気持ちが伝えやすかったし、受け取ってもらいやすかった。ポイントにならない(十八番である)イナバウアーをしたことで揺るぎない4割(のプログラム)になったと思います。でも、やはり揺るぎないプログラムを早い段階で作ることは大事です」と語る。いずれにせよ、スケーターの伝えたいことが盛り込まれたプログラムを作ることが、より良い滑りにつながるのだ。

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