羽生結弦、四大陸選手権は次につながる貴重な敗戦 (2ページ目)

  • 折山淑美●文・取材 text by Oriyama Toshimi
  • 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

ブライアン・オーサーコーチの指導を受けるため、羽生は拠点をカナダのトロントにしているブライアン・オーサーコーチの指導を受けるため、羽生は拠点をカナダのトロントにしている
 髙橋を指導する長光歌子コーチが「いつもの年の四大陸より今年は1週間早かった。年末の全日本選手権まで緊張が続いていたので、年明けまでは気持ちを緩めさせたが、結果的にこの大会への準備が足りなかったと思う」と話すように、気持ちの切り替えがうまくできない大会だった。

 一方、先に滑り終えていた羽生の表情は、悔しさをあらわにしながらも余裕があった。

「調子がよかっただけに、こういう演技だったというのが悔しいですね。6分間練習はそんなに悪くなかったけど、2番滑走なのに(練習で)少し筋肉を使い過ぎていたのかもしれません。終盤は集中力が切れてしまい、演技が散漫になってしまいました」(羽生)

 今回の四大陸は、ライバルであるパトリック・チャン(カナダ)が出場しなかったため、GPファイナルで1位と2位になった髙橋と羽生の力が突出していると見られていた。特に羽生は、直前にSPのプログラムを変更した髙橋より、余裕を持って全日本王者の強さを見せてくれるはずと期待されていた。

 だが、チャンの不在によって、彼の心にスキが生じたのかもしれない。SPでの羽生の演技には、そんな雰囲気も見えた。冒頭の4回転トーループで2点の加点をもらい、中盤のトリプルアクセルも2・71点加点される完璧な出来だったが「トーループもアクセルもうまく入ったので、それからあとは表現の方に集中した」と羽生本人が言うように、魅せることを意識し過ぎた。そのバランスのわずかな崩れが、終盤の3回転ルッツが1回転になってしまうというミスを引き起こしたのだ。

 そして、このSPでの凡ミスが「フリーでは自分の力を見せつけたい」という力みにつながってしまったのかもしれない。フリーのポイントは4回転サルコウだった。GPファイナルと全日本で完璧に跳べず、その後の練習でサルコウに重点を置いていた。4回転や3回転トーループを跳んだあとに挑むという、試合の流れに則した練習を繰り返していたのだ。しかし、そのサルコウを失敗。これが、その後のミスを誘発してしまった。

「後半ダメだったことを、自分の中では責めてはいません。たしかに集中力やスタミナを切らさないようにするのは世界選手権へ向けての修正点だけど、4回転サルコウは公式練習でも調子がよくてバンバン跳べていたので、その感覚を忘れないようにして次へつなげていけばいいと思います。今回の結果は『しょうがないな』という気持ちだし、これが世界選手権でなくてよかった」

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