アメリカ大会で逆転負けも、羽生結弦の未来に不安を感じない理由 (3ページ目)

  • 青嶋ひろの●取材・文 text by Aoshima Hirono
  • 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 また外国人コーチへの変更、海外(カナダのトロント)への練習拠点変更、英語もままならないまま、慣れない外国暮らしの始まり......。大きな環境の変化は、それだけで大きなストレスだ。さらに急なコーチ変更に賛成しない人々を、納得させなければならない、自分が頑張らなければ新しいコーチの評価にも響く、そんなことも盛んに気にしていた。

 そして、自ら設定した4回転トーループと4回転サルコウ、2種類の4回転を試合で跳ぶという、大きな課題。加えて、彼の弱点を克服すべく、新コーチ、ブライアン・オーサー、スケーティング担当コーチ、トレイシー・ウィルソン、振付師デイビッド・ウィルソン、ジェフリー・バトルが結託して、まるで悪だくみのように彼に課した「鬼プログラム」。ジャンプのテイクオフ前の複雑なムーブメント、一部の隙もないトランジション(ジャンプとジャンプの間のつなぎの演技)、現在の彼の技術ではとてもこなしきれない高度なステップ……。

 それらで組み立てられたショートとフリーのふたつのプログラムは、「これは試合で勝つことを考えていないのではないか?」と首をひねりたくなるほど高難度だ。カナダの一流指導陣は、目の前の試合で勝つためではなく、乗り越えることで羽生がさらに成長するため、試練としてこのプログラムを与えたのだ。
 
 高い高いハードルを前に、目いっぱい練習に励もうとしたこの夏。しかし3月に傷めた足首は「まだちょい痛い」(羽生)状態で、痛みと戦う毎日だった。夏を何とか乗り越えたころには、季節の変わり目で、持病のぜんそくの症状がひどくなり、最悪の体調でシーズンを迎えた。初戦のフィンランディアトロフィー(10月)ではガリガリに痩せ、新しいコスチュームが大きすぎて着られなかったほどだった。
 
 どうだろう? 並みの選手ならばひとつで、十分、1シーズンふるわなかった理由になるくらい、逆境のてんこもり。これが、17歳の少年を襲ったのだ。

 それでもこの少年のことを……私たちは、それほど心配する必要はない。数多の壁を前にして、「いやあ、大変だなあ、僕!」そんなことを言いながら、羽生結弦はうひょうひょと笑いだす。

3 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る