苦境から復調。村上佳菜子、「強いスケーター」への着実な一歩 (2ページ目)

  • 青嶋ひろの●取材・文 text by Aoshima Hirono
  • 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 体調不良が続いた原因は、やはり練習疲れもあるという。村上本人も、山田満知子コーチも、「やらなきゃ!」という焦りの気持ちが募るなか、かなり中身の濃い練習をこなしてきた。特に四大陸後の練習は、村上が「かなりキツかったです......」と苦しげに振り返るほど過酷な追い込みだった。「今シーズン最初が良くなかったから、『ここでがんばんなきゃ!』の気持ちが大きすぎて......」(村上)。

 さらに、練習だけでなく、世界選手権直前に愛知県選手権にも出場するなど、少し自らに鞭打ち過ぎてしまった。これは来シーズン、練習内容を見直すのかと思いきや、村上本人はこう言う。

「そうはいかないですよ! 練習はやっぱり頑張らなくちゃ! 理想は、納得いくまでとことん練習して、試合の始まる1週間くらい前から少しずつ、疲れないように力を抜いて行くこと。余裕を持った調整ができるくらい調子を上げるためには、やっぱり試合のない時期から、しっかりと練習しないといけないんです」

 振り返ってみると、シーズン序盤の短くない期間を棒に振ってしまったことが、後半戦での余裕のない調整につながってしまったことは否めない。シニア2年目の今シーズン、苦い思いを味わった村上だが、来シーズンはこの経験を生かしたいと前を向き続けている。

「はい、もうそこは気をつけて頑張ります。来シーズンは、できると思う!」

 何度も苦しんだフリーだったが、収穫もある。今シーズン、初めて海外の振付師のもとに赴(おもむ)き、新しいイメージのプログラムを滑った。メンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲」は、昨年の映画音楽「マスク・オブ・ゾロ」のようなキャッチーで勢いのあるものではなかったし、もっと派手なプログラムでも、という意見もあった。しかし村上自身は、新しいプログラムへの挑戦を、こんなふうに感じている。

「フリーは確かに、今までやってきたものと違っていてすごく難しかったし、自分のものにするのは大変でした。でも、難しいからこそたくさん練習できたんです。手の使い方から、感情の出し方から......。何度も繰り返して、ちゃんと見せられるようにして。だからもし、また『ゾロ』のような激しい曲を滑ったとしたら、去年とは違った、もっといいものができるんじゃないかな。今年の練習の経験で、きっと手足の動きも気持ちの表し方も、うまくなってると思うんです。シーズン中は滑りながら、『これでいいのかな?』と、ちょっと迷ったフリーだったけれど、今はこの曲にしてよかった、と思っています」

 完全に満足のいく結果とまではいかなかった。だが世界選手権2度目の出場で5位は、十分に立派な成績。去年は出演できずに悔しい思いをしたが、今年はエキシビションまで笑顔で滑ることができた。苦しみながらも大きな経験も得たし、新しい挑戦での収穫もあった。何も得られずに終わってもおかしくなかった一年、大躍進とはいかないまでも、着実な一歩を見せることができたのだ。

 村上佳菜子は、「強い日本の女子シングル」を代表するにふさわしいスケーターへと成長を続けている。

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