内山高志が絶賛する、武尊を退けた那須川天心のジャブと距離感。ボクシング転向後も「活躍する可能性は十分にある」

  • 篠崎貴浩●取材・文 text by Shinozaki Takahiro
  • スエイシナオヨシ●撮影 photo by Sueishi Naoyoshi

 内山氏はさらに、「天心選手からクリンチする場面がありましたが、あれも武尊選手のパンチを封じる手段のひとつ。逆に言うと、それだけ武尊選手の連打が脅威だったとも言えます」と分析した。

 武尊も攻撃を受けながら笑顔で反撃に出るなど、お互いに"らしさ"を見せた濃厚な9分間。結果は、天心の判定勝利。

 キックボクシングを42戦全勝で終えた"神童"は、しばしの休息を経てボクシングの世界へ飛び込むことになる。その適正について内山氏は「ボクシングでも強いと思います。キックの試合であれだけボクシングの動きができるのはすごいこと。ボクシング特有の接近戦の戦い方を身につける必要はありますが、アジャストできる能力はあると思う。何より、プレッシャーのかかる大舞台で勝ちきってきた経験はとてつもなく大きい。ボクシングでも活躍する可能性は十分にあると思います」と太鼓判を押した。

「ありがとう」と「感謝」

 判定が読み上げられたあと、2人はリング上で抱き合って泣いた。7年分の思いと涙。武尊はその涙をぬぐいながらリングを降り、天心はリング上で「やったぞー!」と絶叫した。

 互いの背負うものが大きいほど、賭けるものが大きくなればなるほど、明と暗のコントラストは大きくなる。しかも今回は、リベンジのチャンスがない一度きりの大勝負だ。

 試合後、インタビュールームに現れた武尊は、数秒間の沈黙のあと、涙を滲ませながら声を絞り出した。

「この試合を実現させるために動いてくれた人たち、支えてくれた人たち、対戦相手の天心選手に心から感謝しています。僕を信じてついてきてくれたファンの人たちだったり、K-1ファイターだったり、ジムのみんなだったり、そういう人たちには心から申し訳ないなと思っています。以上です」

 そうして、インタビュールームを去る前に取材陣に一礼し、控室へと消えた。

 一方の天心は「武尊選手、ありがとう。武尊選手がいたから強くなれたし、キックを続けられた。マジで出会えてよかった。感謝しかないです」と語った。世紀の一戦を経て両雄が口にしたのは相手への「ありがとう」と「感謝」という言葉だった。

 7年間待ち望まれた夢の対決、世紀の一戦は完結した。最高のエンターテイメントを見せてくれた那須川天心と武尊の2人に、そしてこの日、東京ドームに集ったすべてのファイターたちに「ありがとう」の言葉を送りたい。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る