内山高志が絶賛する、武尊を退けた那須川天心のジャブと距離感。ボクシング転向後も「活躍する可能性は十分にある」

  • 篠崎貴浩●取材・文 text by Shinozaki Takahiro
  • スエイシナオヨシ●撮影 photo by Sueishi Naoyoshi

「ボクシングとキックボクシングでは距離感が違いますから、キックの試合であのジャブを当てるのはなかなか難しいんです。でも、天心選手はボクサーのようなジャブを当て、キックも蹴っていました。

 プロボクシング転向を見越して磨いたパンチの技術と、キックをうまく融合させた感じですね。右のジャブを先に当てることで、武尊選手は中に入れなくなった。天心選手のパンチの技術、うまさが光っていました」

 天心は、試合後のインタビューで「相手セコンドの『ジャブを捨てろ』という指示が聞こえていました。だから、より踏み込んで打った」と明かした。「捨てろ」という指示は、天心のジャブを避けたりブロックしたりするのではなく、「もらってでも前に出ろ」ということだろう。そんな相手の戦略を逆手に取り、天心は思いきりのいいジャブを当てていった。

 試合が大きく動いたのは1ラウンド終盤。武尊が左フックを振ろうとしたところ、天心の左フックが顎を打ち抜いた。天心は「会心の左でした。刀のようにコンパクトに狙う。それは意識していた。最後に確認したパンチだった」と語った。

 その左フックについて内山氏は「あれは、狙っていたパンチではなくて、練習で身につけたことが自然と出たんだと思います。癖になっている、と言ってもいいくらい染みついていた。コンパクトに打ったことで武尊選手のパンチより先に当たった感じですね」

 1ラウンドで2ポイント差を付けられた武尊は、2、3ラウンドで得意の打ち合いに持ち込もうと強引に前に出てパンチを振った。これまで幾度となく相手を倒してきた左右の拳だったが、天心に決定打を入れることはできなかった。内山氏によると、「天心選手は距離感が抜群だった」という。

「プレッシャーをかけて打ち合いに持ち込みたい武尊選手に対して、天心選手はバックステップで距離を外したり、打ったあとに必ず動いて常に自分の距離を保っていました。ステップも速かったですね。武尊選手は自分の距離に持ち込めず、パンチが単発になって連打が出せませんでした」

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る