「伊調馨さんは現役を引退されたのですか?」。オリンピック4連覇の最強女王に素朴な質問をぶつけてみた (3ページ目)

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

「あと、大学生は目標がバラバラなのも、コーチングにおいて難しい点ですね。日体大と言えども、オリンピック出場を目標にしている選手ばかりではありません。インカレ優勝を目指している学生もいれば、先生になるために入学してきた学生もいます。

 なかには『卒業したらレスリングは辞めます』とキッパリと言って、3年生の途中から就職活動をメインに動く学生もいます。そうなると、大学4年間のうちレスリングに打ち込めるのは2年半から3年しかありません」

---- ナショナルチームを指導するほうがわかりやすい。

「ほんと、そう思います。オリンピックを目指す選手たちに技術指導するほうがよっぽどラクじゃないかと。でも、田南部コーチは違うんです。教育的観点から指導されているというか。私生活や心のケア、栄養まで細かく、しつこいぐらいに指導されています。

 私はどこかで『言ってもわからないかな』とあきらめたり、『なぜもっとレスリングを真剣にやらないんだろう』と不思議に思ってしまうんですけど、田南部コーチは選手全員に日常の取り組みすべてをきちんとやっていくことが大事だと教えています。"先生"としての力量の差を感じますね」

---- コーチとして今、大切にされていることは?

「レスリングの面白さ、楽しさを伝えたいです。それもできるだけ早い時期、大学に入学してきたばかりや、遅くとも2年生のうちに。そうすれば、在学中に『もっと強くなりたい』という意識が芽生えてくるでしょう。選手たちを見ていて「もうちょっと続ければ、もっと強くなれるのに」と思うことがあるので、それが芽生えないまま辞めるのは悲しいじゃないですか」

---- 過去のコーチから言われて印象に残っている言葉やわかりやすかった教え方を、伊調さんは自身のレスリングノートにメモしていると聞いたことがあります。それは役に立っていますか?

「役に立っていることは間違いありませんが、そのまま使えるわけではなくて、一人ひとり相手に合わせてアレンジしないといけません。コーチから言われたことが100パーセント正しいわけじゃないですし。私自身も『ちょっと違うんじゃないか』」と思ったこともありましたから。

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