「伊調馨二世を育ててもつまらない」。伊調馨がコーチ兼選手として思うこと

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 でも、私の意見も尊重してくれて、「あれもこれも(提案は)あるけど、それだけじゃない。最後は自分に合ったところを見つけなさい」と指導してくれます。「1がダメなら2、それがダメなら3」といつも先を考えていて。私も大学時代より少しは2個、3個先まで考えられるようになったと思うんですけど、馨さんはいつも10個先まで考えているんです』

「それがわかってきたのか。えらい(笑)」

(森川)『昔は「馨さんに負けても仕方ない」と思うこともあったのですが、今は馨さんを倒したいです。でも、メチャクチャ強い。隙がないんです。手や足を取っても、すぐに切られたり、返されたり......。

 しかも、私のほうが若いし、いっぱいトレーニングをしているはずなのに、先にバテてしまいます。とにかく"世界一のお手本"が目の前にいてくれるのは、本当にありがたいことです。試合で誰と組んでも「馨さんよりは弱いな」と、自信を持って戦えますから』

「なるほど。美和も成長した、ということですね(笑)」

---- 伊調さんの指導の甲斐もあって、森川選手は今年4月に行なわれたアジア選手権で見事に優勝しました。森川選手のよさ、課題はどんなところでしょうか。

「いいところは、タックルに入るスピードと、正面タックルにどんどん入っていく意識の高さですね。ゾーン際の使い方も上手で、体が柔らかいからもつれた時も強い。ただ、レスリングが単調、単純です。

 スパーリングしている時も、何を狙っているかがわかりやすい。両足タックルを狙っているとか、こっちサイドから攻めてくるとか。もっとよく相手を観察して、戦術を考えないとダメ。『レスリングは駆け引き、だまし合い』と表現されることもあるとおり、裏をかいて取れた快感を知ってほしいですね。

 だから、美和はトランプとかやるといいんじゃないかな。私は小さい時、父のひざの上に乗って親戚の人たちと興じるトランプを見るのが好きでした。どうやって相手をだますか、裏をかくかを観察するのが好きだったので、それがレスリングにも役に立っているかも」

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る