子供たちを教えるなかで見えた「悲しくなるような現状」。レスリング・中村未優が説く女性コーチの重要性 (2ページ目)

  • 佐野美樹●取材・文 text by Sano Miki
  • photo by ©Sachiko HOTAKA

女性コーチの重要性

 思えば、中村のライバルや友人の多くも進学などの節目で競技から離れていった。中学、高校、大学と、一緒に戦ってきた子たちが辞めていく姿を見送るのは寂しかったと中村は悲しい顔をする。もちろん、人それぞれの選択があるし、理由も一概にそれらが原因とは言えない。

 ただ、せっかくレスリングを楽しいと興味を持ってくれた子どもたちや中高生の選手、また、これから競技に出会うであろう選手が、この先もし女性特有な身体と心の変化を理由で諦めたり、遠ざかってしまうのであれば、自分が変えたいと思った。

 環境を変えることとして、中村は女性コーチの重要性を強く感じていた。

「もし女子選手の練習環境に、女性コーチがひとりでも多くいたら、もっと選手に寄り添ってあげられるのかな、と思うんです」
 
 何度か個人で海外遠征へ行った時に、中村は本来こうあったほうがいいと言える光景を目にした。

「例えば、アメリカのナショナルチームは、スタッフ、コーチも含めて周りに関わる人が女性と男性の数が同じくらいか、もしくは女性のほうが多いくらいなんです。強化のスタッフだけで言うと女性のほうが多いので......それが普通というか、当たり前になるような環境が一番いいのかなと思います」

 日本でも、少しずつ女性のコーチがナショナルチームに参加する機会が増えているが、男女の比率で言えばまだまだ少数だ。ただ、歴史を重ねて女性の五輪経験者や競技人口が以前よりも増えてくることで、これから変わっていくだろう。

 もちろん、女子選手を取り巻く環境を改善したなかで必要とされるのは、必ずしも女性の競技経験者の力だけではない。

「例えばチームのマネジメントとかメンターは、レスリング経験者じゃなくてもできるポジションだと思います。あとはコーディネーターとか。これはレスリングを経験していない人のほうが客観視できて、むしろいいのではないかと思います。

 技術や戦略的なこと、強化のことはレスリング経験者のほうがいいと思うので、そこに関しては女性のコーチと男性のコーチ半分半分とか、もしくは女性の強化だったら女性のほうを多くしたり。そうなればもっと総合的によくなっていくのではないかと思っています」

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