朝倉海にリベンジした扇久保博正、カズの息子も。大晦日のRIZINは「逆境」「諦めない」男たちが輝きを放った (2ページ目)

  • 篠崎貴浩●取材・文 text by Shinozaki Takahiro

【「全部できる」扇久保の強さ】

 執念を燃やし続けて辿り着いた井上戦。1ラウンドは、得意とするグラウンドで井上に上を取られ、何度も肘を落とされた。「やはり勝つのは本命・井上か」。この時点では誰もがそう思ったはずだ。

 2ラウンドも、序盤は井上がグラウンドで優勢に。しかし中盤、扇久保が返して上になると、パウンド、バックチョークを狙うなど主導権を奪い返した。そして3ラウンド、扇久保は打撃でも果敢に前に出て距離を詰め、テイクダウンに成功。背後からしつこく攻め続けて判定勝利をもぎ取った。扇久保が、5年間の思いをついに浄化させた。

 そして決勝で相対したのは、朝倉海。ふたりは、2020年8月の「RIZIN.23」でバンタム級の王座を争った。この時、扇久保は打撃で圧倒され、1ラウンド、4分31秒でTKO敗け。その雪辱戦となった。

 朝倉が準決勝の瀧澤謙太戦で右拳を骨折していたことは知る由もなく、体力を大きく消耗することなく勝利を収めていたため、リマッチでも朝倉が圧倒する展開も十分に考えられた。しかし、試合を支配したのは扇久保。1ラウンド序盤は簡単にテイクダウンにはいかず、朝倉の前足にローキックを放ち続ける。中盤、前足のシングルレッグからテイクダウンに成功。マウントからパウンドを落として完全にペースを握った。

 2、3ラウンドも、完全に扇久保ペース。前回やられた打撃で下がらずに前に出た。飛び込んでの左右フックや、タックルのフェイントを効果的に使いながら打撃を当てていく。朝倉の打撃を交わしてテイクダウンも奪った。ゴングが鳴ると、朝倉はリングに座り込み、一方の扇久保は自陣のコーナーに帰ると、観客に向かって両手を突き上げた。

 朝倉が右拳の骨折で本来の力を発揮できなかったことは否めないが、「扇久保選手が強かったですし、完全に自分の実力不足だと思っています」と素直に敗北を認めた。それほど、扇久保の強さが際立っていた。

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