伊調馨からは「早く負けろ」。須﨑優衣が3度の敗北から金メダルを掴むまで【2021人気記事】 (3ページ目)

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • photo by JMPA

 迎えた2019年6月の全日本選抜選手権、須﨑はプランどおりの試合運びで入江を撃破する。ところが翌月のプレーオフでは攻撃が空回り、入江に3度目の敗退。東京オリンピック出場権を獲得できる世界選手権の代表枠は入江に奪われた。

 日本レスリング協会は「今回の世界選手権でメダルを獲得した選手は、その場で東京オリンピック代表に内定する」と規定していた。女子レスリング王国の最軽量級代表に選ばれた入江が3位以内に入れない可能性は限りなく低く、須﨑の東京オリンピック出場の可能性は消滅したと誰もが思った。

 須﨑は2日間、泣きまくった。それでも、エリートアカデミー時代から指導を受ける吉村祥子コーチに「たとえ0.01%でも可能性を信じてやろう」と声をかけられ、3日目からは練習に打ち込んだ。

 須﨑の座右の銘は「人事を尽くして、天命を待つ」。すると、彼女のもとに情報が飛び込んできた。『入江、世界選手権3回戦敗退。メダル届かず』。

 気持ちの高鳴る須﨑と、意気消沈の入江。12月の全日本選手権では両者の勢いがそのまま反映され、須﨑が危なげなく勝った。そして1年延期となった2020年4月のアジア予選、須﨑は4試合すべてテクニカルフォール勝ちで五輪代表権を獲得。東京オリンピックでの活躍は前述のとおりだ。

 日本の女子レスリング界には、ふたりのレジェンドがいる。

 そのひとり、吉田沙保里といえば"連勝記録"。公式戦119連勝を記録していたが、北京オリンピック前のワールドカップでまさかの黒星を喫した。さらにロンドンオリンピック前も負けて、再び連勝記録を止められる。しかし、吉田自身は連勝にこだわることなく、「負けを知って、また強くなった。負けないとわからないことがある」と語っていた。

 伊調馨はリオデジャネイロオリンピックを7カ月後に控えたヤルギン国際大会で、0−10という屈辱的な試合を経験した。だが、伊調は「この負けはチャンス。成長のきっかけにします」と言い切った。

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