2021.10.12

因縁の岩谷麻優との激闘前夜、王者・中野たむが記者に「怖いです・・・」と吐露した理由

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko

――明日勝ったら、どんな自分になれると思う?

「岩谷麻優に勝てた時、本当にひとりのレスラーとして、ユニットのリーダーとして、スターダムのエースとして、中野たむという選手がひとりで歩いて行ける。あの頃の岩谷麻優を超えて、今度は私がだれかに施してあげられるトップの選手になれると思います」

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 大会当日、大阪の最高気温は30℃を超えた。会場に到着すると、試合開始1時間半前にも関わらず物販ブースには長蛇の列。全国に広がるスターダムの勢いを感じずにはいられなかった。

 第0試合から、会場は大いに沸いた。豪華な演出、煌びやかなコスチューム、美しく、そして強い選手たち......。観客一人ひとりの紅潮した顔が、この大会が持つ意味の大きさを物語っていた。

 タイトルマッチが次々と行なわれる。フューチャー・オブ・スターダム選手権試合(●ウナギ・サヤカvs琉悪夏〇)、ハイスピード選手権試合(〇スターライト・キッドvsフキゲンです★●)、アーティスト・オブ・スターダム選手権試合(なつぽい、ひめか、〇舞華vs上谷沙弥●、AZM、渡辺桃)。そしてついに迎えたセミファイナル。会場に張り詰めた空気が漂った。中野たむと岩谷麻優の一騎打ちが始まる――。

 ゴングが鳴る。両者、コーナーから動かない。対角線上に、真っ直ぐ見つめ合う。2人だけの空間。長い時間が流れる。

 レフェリーに促され、先に仕掛けたのはたむだった。静かなグラウンドの攻防。じっくりと2人の歴史を噛み締めるかのように、技を掛け合う。一瞬の隙を狙い、たむがジャーマン・スープレックスを繰り出すも、岩谷はすぐに立ち上がる。「岩谷! 岩谷! 岩谷!」と叫ぶたむの声が、静まった会場に響き渡る。そしてたむのプランチャ――。

場外の岩谷(下)にプランチャを見舞う中野 ⓒSTARDOM場外の岩谷(下)にプランチャを見舞う中野 ⓒSTARDOM この記事に関連する写真を見る  2018年9月、たむは岩谷とアーティスト・オブ・スターダム王座のベルトを巻いた。しかし防衛戦でたむのプランチャが誤爆し、岩谷はケガを負った。それからたむは、ケガをさせた負い目から飛べなくなってしまう。コーナーの上で震えるたむに、岩谷は言ったという。「大丈夫、飛べるよ」――。今でもたむは、その"魔法の呪文"を唱えることがある。

 しかしそんな過去を断ち切るかのように、たむは高く飛んだ。一切の迷いは感じられなかった。続いて4連続ジャーマンを繰り出し、あの頃の弱かった中野たむではなく、チャンピオン・中野たむの強さを見せつけた。