マスカラスが投げたマスク争奪戦の裏側。ジャンケンに勝ったファンに「今すぐ逃げろ」 (2ページ目)

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji
  • photo by Kimura Moritsuna/AFLO

 プロレスラーの入場テーマソングの先駆けとなったマスカラスは、8月のシリーズに招聘することが定着したため「夏男」とも呼ばれた。さらに、リングアナウンサーのコールと同時に、試合用のマスクの上に被っていた別のマスク(オーバーマスク)を脱ぎ、会場に投げるというファンサービスも、少年ファンの心をくすぐった。

 それが「千の顔を持つ男」という異名の原点でもあるのだが、全日本に参戦した当初はファンに浸透しておらず、マスカラスのアメリカでの活躍を知る関係者がマスクを狙っていたという。

「最初の頃は、俺ら『リング屋(リング設営のスタッフ)』たちのほうがマスクがほしくてね。マスカラスの試合になるとリングサイドに陣取って、投げたマスクをもらっていたんです(笑)。テレビ中継でパフォーマンスが浸透してからは、そんなことはできなくなりましたけど。

 どこの会場に行っても、マスカラスがマスクを投げるとファンが殺到するようになりましたね。誰も譲ろうとしないから、俺らは仲裁役にならないといけなかった。会場の隅にマスクがほしいファンを連れて行って、ジャンケンで勝ったファンにマスクを渡す形にしていたけど、いつも俺は勝った人には『今すぐに逃げろ』とアドバイスしていました(笑)。カツアゲされることが心配でね」

 観客に投げるオーバーマスクにも裏話があるようだ。

「ギャラとは別に『オーバーマスク代』という名目で馬場さんに請求していたんです。馬場さんもファンが喜ぶから認めてましよ。だからマスカラスにとっては、マスクを客席へ投げれば投げるほど、"別腹"が懐に入って来るということですね(笑)」

 マスカラスは私生活でも決して覆面を脱ぐことはなかったが、和田はある時、地方巡業中に素顔を見たことがあった。ザ・デストロイヤーの素顔を見た時には「おっさん」と思った和田だが、マスカラスの印象は違ったようだ。

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