「延期になってから、ケンカも増えて...」。川井梨紗子が語った姉妹で金への苦しかった道のり (2ページ目)

  • 松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu
  • photo by JMPA

同じ金メダルとて、意味合いが違う。リオ五輪では、女王・伊調馨との争いを避け、63キロ級(現62キロ級)での優勝だった。今回は、本来の階級に戻し、57キロ級での金メダル。

しかも、日本女子レスリングを引っ張ってきた伊調と吉田沙保里が引退した後の初めての五輪だった。チームを牽引するエースの覚悟と責任があった。「今思うと、リオの時はのびのび自由にできていたなって思います」と、川井梨は漏らした。

「2連覇って誰もが目指せるものじゃないし、やっぱり経験している年数と時間の重みが違うので。やっぱり特別だなと思います。それと、今までは沙保里さん、馨さん、先輩の背中を追っていけばよかったのが、気づけば、自分が引っ張らなきゃとなっていて......。この数年、いろいろなことを経験させてもらったなと思います」

 日の丸を掲げながら、笑顔でマットを一周した。会場も回り、その後、テレビのフラッシュ・インタビューが続く。畏敬する吉田沙保里さんから連続金メダルをたたえられると、川井梨は「沙保里さんのすごさがわかりました」と漏らし、感激の涙を流した。

 この苦しい道のりを乗り越えられたのも、妹の存在があったからだろう。勝ち続けることは難しい。リオ五輪後、「今度は逃げない」と本来の力を発揮できる57キロ級に階級を戻した。もちろん妹の友香子が62キロ級だったのも無関係ではない。

 『姉妹で東京五輪』、そう川井梨は妹と決めていた。2018年秋、休養明けの伊調が川井梨と同じクラスに復帰してきた。その年、練習拠点だった愛知・至学館大の指導者による伊調へのパワハラ問題が起きた。双方の指導者間の争いに巻き込まれ、なぜか川井梨にも厳しい目が向けられた。

 ふたりの直接対決は注目された。川井梨は2018年末の全日本選手権の決勝では敗れたが、2019年6月の全日本選抜選手権、7月の世界選手権代表選考プレーオフでは伊調を破った。その世界選手権で姉妹そろって東京五輪の出場権を獲得した。ふたりで泣いた。

 ふたりの目標が『姉妹で金メダル』に変わった。父はレスリングの元学生王者、母が世界選手権出場者のレスリング一家。母の現役の時には女子レスリングはまだ、五輪では実施されていなかった。姉妹で金メダルはいわば、家族の夢となった。

 そういえば、五輪代表に決まった時から、川井梨の携帯電話の待ち受け画面は東京五輪デザインの金メダルとなった。表彰式でまじまじと金メダルを見つめた姉は笑った。

「やっと手元に実物がきたなって」

 姉の梨紗子はオン・オフの切り替えがうまい天才型、23歳の友香子はおっとりしているけど、コツコツと練習に励む努力型。いわば「ウサギ」と「カメ」か。性格も対照的だが、レスリングにかける熱量は同等だった。

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