「俺様柔道が好きです」。病床の父・古賀稔彦が迷う息子・玄暉に送ったメッセージ (4ページ目)

  • 粂田孝明●取材・文 text by Sportiva
  • photo by AFLO

 最後に交わした言葉はもう覚えていませんが、母から伝言として父の言葉をもらいました。それは亡くなる3日くらい前だったと思います。全日本選抜柔道体重別選手権大会が迫っていた時なのですが、その頃の自分は、自分の柔道にビビッていました。

 これまではずっと、『俺様柔道』()をしていましたが、いつの間にか「試合に負けてはいけない」という気持ちや、「もう若手という枠ではないんだな」という焦りが出てきて、「内容が悪くても勝てればいいや」という気持ちで戦っていました。全体的に逃げながらの試合運びになっていて、いいところまでいっても勝ち切れなかったんです。
※稔彦さんが名付けた積極的に前に出ていく玄暉選手の柔道スタイル

 父はそんな気持ちを見透かしていたのかもしれません。その頃は病気が進行して、もうしゃべるのも苦しい状態だったのですが、母に自分への思いを伝えて、母がそれを手紙にして渡してくれました。それが、「玄暉の俺様柔道が好きです」という言葉です。

 この言葉によって気持ちがすっきりして、本来の自分の柔道に立ち返ることができました。これまでの試合と全日本選抜柔道体重別選手権大会での優勝は、自分自身でも見違えるほどの変化がありました。

 父は常に何かに挑戦したいという気持ちを持っていて、変化を求めている人でした。引退後に道場を開いたことや、弘前大学大学院で医学博士を取得したこと、日本健康医療専門学校の校長もそうです。家の中の小さいことで言えば、母に代わって僕たちへの食事を率先して作ってくれました。

 これまでの父の行動や言動を振り返ると、父が生涯を通して伝えたかったのは、「柔道が強くなることよりも、柔道を好きでいてほしい。柔道ってすばらしいものなんだよ」ということだったと思います。

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