「そんなことしていいの?」。赤いベルトを持つ林下詩美がさらに強くなるための課題

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko

 限られた相手とは、ジャングル叫女。「同じパワーファイターとして全力でぶつかり合えるし、信頼して全部を出せる」と話す。

 逆に、やりにくいのはどういった選手なのだろうか。

「技でいったら、関節技や蹴りが多い選手は、自分とはまったく違うタイプなので読めない部分はあります。白いベルトを取ってきたような、感情を出して闘う選手も少し苦手かもしれない」

 関節技と蹴りはまさに、林下が持つ赤いベルトを狙っている朱里が得意とするところ。

「苦手を克服しなければいけないですね。パワーファイターにラリアットされる、とかだったら相手の動きが読めたりもするんですけど、急に蹴られたりするとちょっとダメですね......。頭とか蹴られると、『そんなことしていいの?』と思います(笑)」

 感情を出す。関節技や打撃の技術を磨く。もはや完成されたようにも見える林下だが、本人はまだまだ課題があると感じている。

 しかし人はある時、あるきっかけで、劇的に変わることもある。スターダムの選手たちにとってそれは、2019年12月、ミラノコレクションA.T.がコーチに就任したことだった。

「ミラノさんが持っている知識を全部教えてくれる形で、基礎も改めて教え直してくださいました。ちゃんとひとりひとりに、『この人はここ』と指摘してくださる方なので、ミラノさんがコーチになってから選手全員のレベルが上がったと思います」

 ミラノの教え方は極めてロジカルだという。プロレスラーの練習は感覚的なイメージがあるが、ミラノは1から10まですべて言葉で説明する。手本を見せて、「ここがこうだからこうなって、今のはこうなった」という具合だ。できない選手には、なぜできないのか納得いくまで説明する。全選手の全試合をチェックし、だれかひとりを贔屓するのではなく、全員を平等に伸ばそうとしているという。

 ミラノのコーチ就任以降、スターダムの選手たちは見違えるように変わった。林下も例外ではなく、もともと持っていたパワーと技術がブラッシュアップされ、さらに、繊細な表現力が加わった。相手に関わらず感情を出し切って闘う感覚も掴みつつある。

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