新日本プロレスに負の連鎖→藤波辰爾がアントニオ猪木に反旗。師匠を迎え撃った伝説の一戦 (3ページ目)

  • 松岡健治●取材・文 text by Matsuoka Kenji
  • photo by Yukio Hiraku/AFLO

 真夏の「師弟一騎打ち」を、テレビ朝日はゴールデンタイムで生中継。その試合のことを、藤波は「プロレス人生最高のベストバウトです。宝物のような試合です」と振り返る。

 酷暑のリングで猪木と闘いながら、藤波は燃える闘魂の凄さを肌で感じたという。

「あの時、僕は34歳で猪木さんは45歳。体力的にも厳しいはずなのに、時間が経てば経つほど猪木さんのコンディションが上がってくるんです。『さすがだな』と思いましたよ」

 試合は、放送時間の枠に収まりきらない「60分フルタイム時間切れ引き分け」という結果になった。

「試合前は、猪木さんに勝ちたいと思っていましたよ。だけど、リングで猪木さんと戦っているうちに、そんな思いはどこかに吹き飛びました。むしろ、もっと猪木さんとこの時間を共有したいというか、猪木さんを独占したいっていう思いが強くなっていきましたね。

 普通は、60分間も途切れることなく戦うことはありえません。だけどあの試合は、最後まで流れを途絶えさせなかったという自負があります。僕はデビューから、もっと言えばこの世界に入る前から猪木さんの試合をずっと見てきて、動きが頭の中に刻み込まれているから、猪木さんが次に狙っていることがわかるんです。そこに引き込まれるように自分の戦う態勢ができていた。あの戦い続けられる感覚は、たぶん猪木さんも同じだったと思います」

 試合後は、激闘に感動した長州がリングインして猪木を肩車し、藤波は越中詩郎に肩車された。師弟は沖縄で露わになった確執を振り払い、涙を浮かべ抱き合った。この一戦が、藤波にとって猪木との最後のシングルマッチとなった。

「猪木さんを見てきたファン、僕を見てきたファン、そして新日本をずっと見守ってきてファン......いろんな思いが重なり合って、あの時代の総決算のような試合になったと思います」

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