山口香が思う日本柔道が「魂を売った」過去。五輪と国民感情の乖離

  • 村上佳代●取材・文 text by Kayo Murakami  photo by AFP/AFLO

トップには、次世代に任せる勇気が大事

山口 スポーツ界は、経験のある人が「責任は自分たちがとる」という覚悟を持って、若い人をもっと登用して任せていかないと。

遠藤 嘉納治五郎の言葉で「柔道における試合は反省の場だ」というのがあるそうですが、組織というのはなぜ反省ができないんでしょうね。同じ失敗を何度も繰り返してしまう。

 みんな理屈ではわかっていても、やはり「任せきる」というのが難しいのかもしれません。自分のほうが経験値があるから、つい口を出してしまう。カリスマ経営者がいる企業で後継者がなかなか育たないというのも、よくある話です。

山口 たとえ余人を持って代えがたい人であっても、いつか終わりは来ます。力はなくても若手を育てていくしかないですよね。組織も社会も同じだと思います。

遠藤 そういう意味では、後継者を育てるためにはトップ自身がまずは立場を明け渡すことが必要不可欠です。組織のトップが「任せる」と言いながら居座り続けるのはよくない。海外の企業を見ているとトップは辞めるとなったらさっさと抜けて、次世代に託す。だから、各世代が考えて新しい挑戦をして、どんどん成長していくんです。

山口 子どもは親がそばにいると頼って甘えてしまいがちですが、親がいなくなった途端に自分たちで知恵を出し、勇気を出して、本来の力を発揮します。これが指導の基本であり、スポーツをとおして感じてもらいたいところでもあります。

遠藤 ある大企業のトップが株主総会で「あなたはもう高齢だから退任したほうがいいのでは」と言われた際、「自分は老人ではあるが(老)害ではない」とおっしゃったんです。そしたら、後日海外の人から「高齢であること自体が害なんだ」という指摘を受けたそうです。そういう意味で、日本の多くの組織が新陳代謝できないがゆえの課題を内包しているように思います。最近だと、森元会長の失言問題も、高齢がゆえと言われていましたよね。

山口 彼らにとっては失言ではなく"本音"なんです。時代が動いているのに本音を変えられない、マインドセットの変化ができないというのは、一線を退くタイミングなのだと思います。企業が自己批判、自己否定をするのが難しいというのがありましたが、自身の価値観を否定することは自分の人生を否定するようなもの。そんな簡単には変われるものではないと思います。

 難しい問題ですが、スポーツ選手は心と体に限界を感じれば引退するわけですから、ご自身で「そろそろ引き際かもな」と気づいていただくしかないのかなと思いますね。

遠藤 経験と実績はすばらしいものがあるので、それを若手のサポートにあてていただけると、組織の新陳代謝につながりそうですね。

山口 そうですね。後方支援していただけると心強いですね。先頭を走っていらっしゃると、抜きたくてもずっと後ろについて走らなければならない状態になって疲れてしまいます。私自身も後進に道を譲っていきたいですし、日本社会がもっと若手が活躍できる社会になっていってほしいなと思いますね。

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