山口香が思う日本柔道が「魂を売った」過去。五輪と国民感情の乖離 (2ページ目)

  • 村上佳代●取材・文 text by Kayo Murakami  photo by AFP/AFLO

成功体験から抜け出せないジレンマ

山口 勝ち続けることで柔道が注目されていた時代もあったので、成功体験が強いぶん、自分たちのやり方が錆(さび)ついていることに気づいてはいても方向転換が難しいのかなと感じますね。

遠藤 ビジネスにおいても、イノベーションを起こした企業ほど次のイノベーションが生み出せないというのはよくある話です。転換ができない間に新しいイノベーターが出てきて駆逐されていく。

 なぜかというと、攻めるより守るほうに力がいってしまうためかもしれません。新しいものを受け入れることは攻めにつながりますが、「守らなければ」という意識が出てくると受容性が低くなってしまいます。

山口 試合ではみんな「攻めろ」というのに、組織になると途端に守っちゃうんですよね。
 
遠藤 本当に守りたいなら、攻めるしかないんですよね。

山口 だからこそ、柔道界でいえば、もっと女性や外部の人、外国人などを役員や委員に登用して、開かれた組織にすることが必要です。自分たちだけだと俯瞰(ふかん)的に柔道を見ることができないので、柔道の未経験者などの客観的な新しい視点を入れて化学変化を起こしていくことで、未来に向かっていく組織にしなければいけないと思います。

遠藤 日本の組織は新陳代謝が不十分なケースが多いと思います。古くからの価値観が固定され、それをなかなか自己否定できない。言葉は悪いですが、人材が居座ってしまって新しい血が入ってこない。新しい風が起こせなければ組織はよどんでいきます。新しい風という点では、柔道は今、男子日本代表の井上(康生)監督が一生懸命にがんばっていらっしゃいますよね。

山口 彼はイギリスに留学して、帰国後に最年少で代表監督になりました。勝てなくなった柔道界を変えるために、(全日本柔道連盟が)新しい人材に任せてみようとなったんです。好きにやっていいとまでは言いませんが、「任せる」という勇気を全柔連が持ったことを私は評価しています。

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