髪切りマッチで勝利した中野たむが取材中に涙。女子レスラーの複雑な思いと強さを語る

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko

 ジュリアの髪が刈られていく間も、涙が止まらなかった。そしてマイクを渡された中野は泣きながらこう言った。

「ズルいよ、オシャレじゃん」

 緊迫した会場の空気が、一気に和んだ。中野たむのこういうところが本当にすばらしい。彼女のこのひと言で、令和の髪切りマッチは悲壮感のない明るい終幕を迎えた。

 入団会見のときに言った「スターダムの頂点に立ちたい」という言葉。シングルのベルトを巻いたということは、頂点に立ったというひとつの指標でもある。それでもまだ「迷いしかない」という。

「私は赤いベルト(ワールド・オブ・スターダム王座)よりも白いベルトのほうがスターダムの最高峰だとずっと思っている。白いベルトを取ることでテッペン取れると思っていたし、それがゴールだと思っていた。でも本当の意味でジュリアを超えるのはこれからだし、今ジュリア色に染まっているこの白いベルトをどうやって"たむ色"に染め上げていくかということのほうが重要だと思う。全然頂点じゃなかったです」

 なぜ、白いベルトが最高峰なのだろうか。

「赤いベルトは技術のベルトで、白いベルトは感情のベルトだと思うんですよ。白いベルトにはいろんな人の情念がこもっているんですよね。歴代のチャンピオンを見ても、感情で闘ったり、いろんなドラマが生まれたりしている。それって女子プロレス特有だと思うんです。女子プロレスにしかないベルトが白いベルトで、だったらスターダムの象徴はこのベルトだと思う」

 女子プロレスの魅力として「女子のほうが感情が出る」ということがよく言われる。中野にとって、女子プロレスの魅力とはなんだろう。

「ジェラシーとか情念とか、細かな感情が女子は出やすい。『この人、本当はこう思ってるんだろうな』みたいなのが、節々に見えるんですよね。そういう裏のドラマが、見ている人の数だけある。選手の数だけ見方がある。今スターダムには25人くらい選手がいるので、25人の主人公がいる映画を観ている感じです」

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