髪切りマッチで勝利した中野たむが取材中に涙。女子レスラーの複雑な思いと強さを語る (2ページ目)

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko

「地獄から這い上がるって、一体なんだよと思いました。なにをもって這い上がると言うのか? でもやってみなきゃわからないなと思って、ユニットを作ってベルトも取ったけど、それでもいつもなにかが足りない。どうしたらいいんだろうと迷った中で、やっぱりジュリアを倒すことでしか、私は這い上がれないんだなというところに辿り着いたんです」

 今年、2.6新宿FACE大会で、ジュリアは「お前、髪の毛を懸けられるのか?」と"敗者髪切りマッチ"を要求。中野は「あんたとやれるんだったら、なんだって懸けてやる」とこれを受けた。

 スターダムに入団してからずっと、髪を大事に育ててきた。3週間に1回は美容院に行き、カットとカラー、一番高いトリートメントで3万円ほど使う。普段使用しているのも、それぞれ1本1万円のシャンプー、コンディショナー、トリートメント。

「女の子って、髪のキレイさと肌のキレイさで可愛さが決まると思うんです。ちょっと『今日、顔がむくんでるな』っていう時でも、髪の毛ツヤツヤでサラサラだったら5割増しくらい可愛く見える。あとプロレスラーという職業柄、髪の毛を掴まれてぶん投げられたりすることが多くて、すごく痛みやすいんですよね。すぐ切れちゃうし。その分、人より頑張ってお手入れしないとキレイさは保てないので頑張っています」

 そんな大事な髪を懸けようと言われた時、どんな心境だったのだろうか。

「ジュリアとは何回も闘っていて、タイトルマッチでも2回負けたし、全然勝てなくて。10.3横浜武道館以降、紆余曲折しながら頑張ってきたけど、自分の中では結果を残せていなかった。髪の毛を懸けることでジュリアと闘えるんだったら懸けるよって思いました。躊躇はなかったですね」

 3.3日本武道館大会で、その闘いは実現した。「ワンダー・オブ・スターダム選手権試合&敗者髪切りマッチ(時間無制限1本勝負)」――。アイドル時代、夢のまた夢だった日本武道館という大舞台。そのメインイベントで、中野は死闘の末、ベルトを巻いた。

 勝利した瞬間、それまでのさまざまな思いが去来したのだろう。中野は号泣した。すべてを出しきって闘った。ベルトを手に入れた。もう何もいらない。「髪なんて切らなくていい」と泣いて訴えた。しかしジュリアは「恥かかせるなよ」と、中野にバリカンを手渡す。涙が止まらない......。「やっぱり切れない」と、理容師に託した。

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