アントニオ猪木とジャイアント馬場。待遇の差と不信感が「闘魂」を育てた (3ページ目)

  • 松岡健治●取材・文 text by Matsuoka Kenji
  • photo by Kimura Moritsuna/AFLO

 馬場は1999年1月31日に61歳で逝去。20年後の2019年2月19日、両国国技館で「ジャイアント馬場没20年追善興行」が行なわれたが、猪木はそれに参加した。その時、馬場と生前最後に会った時の秘話を語っている。

「あるホテルのロビーで顔を合わせて、『お前はいいなぁ』と言われました。何がいいのかわかりませんけど、私が挑戦し続けたんで馬場さんも困っていたんだろうなと思います」

 馬場は猪木に「いいなぁ」の言葉を残して逝った。自由奔放に生きる猪木への羨望と同時に、「お前のように生きることはできない」といった多少の"上から目線"も感じるが、本当の意味は猪木だけが理解するものだろう。

 馬場と猪木には2人だけにしかわからない世界がある。それは追善興行でのファンへの挨拶からも感じられた。猪木がマイクを持って話したのはリングの下。リングに上がらないのは異例で、当時の関係者はその真意を「『馬場さんのリングには上がれない』という、猪木さんなりの敬意なんです」と教えてくれた。

 デビュー60周年記念会見で、シルクハットと赤いマフラー姿で登場した猪木は、「生きてないと思ったんだけど生かされてしまい、仲間たちも旅立ってひとり取り残されてしまった」とつぶやき、馬場を含め、苦楽を共にした天国にいる仲間たちへの思いを打ち明けた。

 今年2月に77歳を迎え、7月には「心アミロイドーシス」という難病に冒されていることを公表した猪木。それでも、「朝起きた時に、『よし今日も』と一日のテーマを見つけて元気を振り絞っている。迎えが来るその日まで、時代に出会い、時代を背負い、時代に恋して、今日を生きる。一瞬一瞬ですが、精いっぱいできる自分で頑張っていきたい」と、命ある限り"闘魂の炎"を燃やすことを誓った。(敬称略)

■アントニオ猪木 著

『猪木力 不滅の闘魂』(河出書房刊)

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