「つないだ手は離さない」。ボクサー栗生隆寛を引退まで支えた父の思い (10ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by AFLO


 粟生の優しさは、ボクサーとしては弱点だったのかもしれない。しかしその優しさは、人としての大きな魅力のひとつだったのは間違いない。

 2015年5月、3階級制覇を狙った粟生はレイムンド・ベルトラン(メキシコ)とWBO世界ライト級王座決定戦を行なう。しかし、前日計量でベルトランが体重超過。粟生が勝利した場合のみ王座獲得となるという条件で試合は行なわれるも、粟生は2RにTKOで敗れる。

 父・広幸さんは「これで終わりだと思った」と、その試合を振り返る。

「引退した今だから言えますが、ここでやめてほしかった」

 しかし、試合から3週間後、薬物検査を受けたベルトランから筋肉増強効果のある違反薬物スタノゾロールの陽性反応が出る。

 そのニュースを知った粟生は父に言った。

「これって、神様が俺にボクシングを続けろって言ってるんじゃないのかな?」

 この時、粟生は31歳。3歳からずっと息子のボクシングを見てきた父はわかっていた。

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