川井梨紗子「馨さんから逃げたと思われる」。苦渋の決断が生んだリオ五輪の金 (6ページ目)

  • スポルティーバ●文 text by Sportiva
  • photo by AFLO


 川井の身体は、63キロ級に出場する全選手のなかで最も小さく、華奢だった。

 日本レスリングはこうしたパワーの差を埋めるため、想像を絶するような厳しいトレーニングや長時間にわたるスパーリングをこなし、体力とスタミナを養う。そして本番では、執拗に攻め続けて動かし、後半相手がバテたところで一気に攻め込む。それが伝統でもあった。

 だが、各国の強化が急速に進み、体力だけでは世界を制することはできなくなっていた。トップレベルの武器も必要となってきたのである。

 吉田沙保里には、ノーモーションで入る伝家の宝刀「高速タックル」があった。しかし川井は、そこまでのタックルは持ち合わせていない。ならばと、川井はテクニックを磨いていった。

 世界選手権の舞台に立った川井は、相手の攻撃を完璧にいなし、効果的にくずし、見事な技の連係で、まったく危なげなく準決勝まで快進撃を続けた。決勝こそモンゴル選手の並外れたパワーに屈したものの、初めての63キロ級で見事に準優勝。日本レスリング協会の当時の規定により、川井は12月の全日本選手権に出場した時点でリオデジャネイロオリンピック代表に内定した。

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