川井梨紗子「馨さんから逃げたと思われる」。苦渋の決断が生んだリオ五輪の金 (4ページ目)

  • スポルティーバ●文 text by Sportiva
  • photo by AFLO


 ただ、伊調戦以外とはフォール、テクニカルフォールを連発。それだけに周囲は、2015年の全日本選抜選手権を前に階級変更を勧めた。いや、説得したと言ったほうがいいだろうか。

 伊調に憧れ、あとを追いかけ、「馨さんを倒してオリンピックに出場する」と公言してきた川井にとって、それは素直に納得できることではなかった。

 だが、悩み抜いた結果、子どもの頃からの夢である「オリンピックに出場すること」を優先した。女子レスリング黎明期、まだオリンピック種目になっていない時期にがんばった母親をオリンピックに連れて行ってあげたい、という思いも大きかっただろう。

 苦渋の決断を下し、58キロ級からひとつ上のオリンピック階級である63キロ級へ階級アップした川井は、決意を固めた。

「周りからは『馨さんから逃げた』と思われるだろう。その屈辱を晴らすには、絶対オリンピックに出場するしかない」

 川井にとって、それまでオリンピック出場は漠然とした目標だった。だが、明確で、必ず成し遂げなければならない、自らに課した責務へと変わった。「覚醒の瞬間」だ。

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