全日の脇役からスターへ。ジェイク・リーの葛藤と人生を変えた出会い (2ページ目)

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko
  • photo by ALL JAPAN PRO-WRESTLING

「人を殴って倒す。それは物理的な強さですよね。人を言い負かす。それは頭の強さですよね。どんなことも受け入れる。そういう器の大きさも強さのひとつですよね。強さにもいろいろあるんですけど、優しさが強さだと思えたのは初めてでした。人にはその人なりの強さがある。自分にしか出せない強さがあるんだから、それをちょっと研究してみようと思ったんです。そうしたら、これまで抱えていたことが楽になりました。楽しくなりましたね」

 倉本から教わった武術の心得は、今も闘ううえで生きている。たとえば、「相手の目を見てはいけない」。目を逸らすと相手はそちらに気を取られる。その瞬間を狙え。凝視するのではなく、ぼんやり見ろ。とにかく呼吸をしてリラックスしろ。倉本はそう繰り返し言った。以来、ジェイクは相手選手の間合いや呼吸を冷静に分析し、自分をリラックスさせることができるようになったという。

 8カ月のリハビリ生活を経て、2018年3月、リングに上がり、復帰を宣言した。所属していたユニット・NEXTREAMを脱退し、6月には自身がリーダーとなる新ユニット・Sweeperを結成。

Sweeperとは「掃除」という意味。そしてもうひとつ「始末する」という意味を持つ。ユニット名について、当時、ジェイクはこう話している。「人の心は環境が汚れていると荒んでいくものなんです。そういうものをこのチームで払拭できればなという意味合いでつけました」。しかし──。

「カッコよく言いたかったんですよ、ぶっちゃけた話。なんかキレイにまとめられないか? ああ、そうだ、みたいな。そう言わないと様にならないっていう。世間体をすごく気にする自分がいたんでしょうね。いまはあんまり気にしていないです。こういうことをバンバン言っちゃうから」

 3年前の鬱屈(うっくつ)とした表情からは想像もつかない笑顔で話す。

 昨年4月、転換期が訪れた。チャンピオンカーニバルで準優勝したのだ。この頃、どのような思いでプロレスと向き合っていたのだろうか。

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