阿部詩の「一本を狙い続ける」凄さ。武器は体幹の強さと抜群の把持力 (2ページ目)

  • 柳川悠二●文 text by Yanagawa Yuji
  • photo by Naoki Nishimura/AFLO SPORT

 柔道を志して以来、常に3歳上の兄の背中を追い、兄の柔道を真似るだけでなく、試合中に緊張をまぎらわすために口を大きく開ける癖なども自然と兄にならっていた。

 高校1年生の頃は、初々しくこんなふうに兄のことを語っていた。

「兄の常に前にでていく姿勢は見習いたい。ずっと一緒に柔道をやってきたから、自然と仕草も似ちゃうんだと思います。顔も似ている? 私はそうは思わないけど(笑)」

 柔道で兄妹が共通するのは常に攻め手を緩めず「一本を狙い続ける」姿勢であり、背負い投げや袖釣り込み腰といった大技(担ぎ技)を伝家の宝刀とする点だ。

 阿部は言う。

「みんなが驚いて、沸くのは担いで投げること。そこにはこだわっています」

 世界選手権の2連覇によって、先に世界デビューを飾っていた「阿部一二三の妹」ではなく、世界のJUDOのニューヒロイン「阿部詩」として世界中からマークされる存在となった。

 相手を跳ね上げる内股も武器として磨き、国内外で研究されるなかでも、技のバリエーションを増やして技に入るタイミングにも変化をつけて対応してきた。

 体幹が強く、そう簡単には体勢を崩されない。日本人の柔道家にとって、まともに組み合おうとしない海外勢の組み手対策は長年の課題だが、阿部は組み際に強く、一度、引き手や釣り手を掴んだら簡単には離さない。把持力(はじりょく)が抜きん出ているのだ。

 代表の内定こそ得られなかったが、華麗で、可憐で、柔道の申し子である阿部の東京五輪代表選出は濃厚だろう。

 一方で、東京五輪出場へ窮地に立っていたのが兄の一二三である。

 2017年、18年と連覇した世界選手権は、19年の東京大会で3位に終わり、代わってライバルの丸山誠志郎が世界王座に就いた。しかし、丸山が優勝すればほぼ代表当確となったグランドスラム大阪では、決勝で丸山を支え釣り込み足で投げて(技あり)勝利し、東京五輪に向けたサバイバルレースは首の皮一枚、つながった形だ。

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