2019.11.28

五輪3度目でやっとつかんだ金メダル。
阿武教子の長い長い戦い

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by AFLO

「ゴールデンスコアは初めてだったのですが、途中で向こうが疲れているのがわかったので、『大丈夫だな』と思いました。このまま判定になってほしくないと思って、一発勝負をかけました」

 阿武は残り30秒を切ってから背負い投げを仕掛け、そこから大内刈りに替えて押し込んで有効を奪い、勝利を決めた。9分41秒の戦いだった。

「試合中は吉村和郎先生が怒っているのがわかるくらい、冷静に戦えていました」と、阿武は笑顔を見せながら話した。劉霞(中国)との対戦になった決勝は、「冷静すぎるほど冷静だった」という状況。開始2分22秒で両者に指導が出たが、安心して見ていることができた。4分38秒には左袖釣り込み腰で一本勝ち。「ずっと練習をしてきているけど、試合では出せない」と笑いながら嘆いていた技を、この大一番で初めて決めた。

 吉村和郎・女子強化ヘッドコーチは「初戦からかなり硬く、準決勝のルブラン戦がひとつのヤマだと思っていたが、気持ちで負けていないことが大きかったですね。最後まで、技を出しきってくれました。阿武は五輪でなかなかメダルを獲れませんでした。世界選手権では獲ったけれども、そこから先のあと一歩がなかなかうまくいきませんでした。技が切れない分、阿武は本当にコツコツとやり続けてくれました」と評価する。

「シドニーの悔しさもわかってくれている吉村先生からは、『頑張ってきた甲斐があったな』と言われました。いろんな浮き沈みがあったけど、『こんな経験をしている選手はほかにいない』と、ずっと自分に言い聞かせてきました」

 長い時間を費やして追い求め続け、やっと届いた五輪の金メダル。それを手にした阿武は、五輪後に強化指定選手の辞退を申し入れると、現役引退を表明。最後に栄光を手にして、長い戦いを終えた。

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