20歳の須崎優衣に奇跡のチャンス到来。
女子レスリング最軽量級が面白い

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • photo by AFLO

 だが、本人いわく、「オリンピックへの道は、そんなに甘くなかった」。

 7月に行なわれた世界選手権の代表決定プレーオフ。勢いは間違いなく、須崎のほうにあった。このプレーオフで入江に勝って世界選手権の切符を掴み、そのまま五輪内定を獲得する青写真を描いていた(世界選手権でメダルを獲得した選手に五輪内定が出される)。

 しかし、まさかの敗北......。この瞬間、レスリング関係者は当然のように入江が世界選手権でメダルを獲得し、五輪内定を獲得すると思った。

 夢を絶たれた須崎は2日間、泣きくれたという。だが、3日目、須崎は練習を再開した。

「早稲田の仲間、王子(JOCエリートアカデミーに入校以降、練習拠点としてきた安部学院高の場所)の仲間に、『まだ内定が決まったわけじゃない。 あきらめるな!」と励まされて、たとえ0.01%でも可能性が残っているなら、自分は前へ進まなくてはいけないと」

 そんな須崎に9月17日、朗報が飛び込んできた。

「入江、世界選手権で3回戦敗退。メダルに届かず」

 レスリングにひたすら打ち込む須崎を、天は見はなさなかった。須崎は決意を固めた。

「奇跡のようなこのチャンス。絶対に私がモノにする」

 今回のワールドカップ、生き返った須崎は誰よりも輝いた。

 準決勝の中国戦、須崎は世界選手権で入江を投げ飛ばして大量点を奪った孫亜楠(スン・ヤナン)を撃破する。さらに決勝のアメリカ戦でもホワイトニー・コンダーをまったく寄せつけず、3分17秒テクニカルフォール勝ち。出場した2試合ともトップバッターとしてチームに勢いをもたらし、優勝に導いた。

 入江が世界選手権で五輪内定を獲得できなかったため、50キロ級の代表争いは再スタートとなった。須崎が夢を叶えるためには、まずは、12月19日~22日に行なわれる全日本選手権を制して日本代表となり、来年3月のアジア・オリンピック予選で出場権を獲得しなければならない。

 入江は今回、ワールドカップを欠場。理由は「右手首の腱鞘炎のため」と発表されたが、12月の全日本選手権に向けて照準を合わせていることは間違いないだろう。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る