川井梨紗子の覚悟。「伊調さんに勝ったからには、世界で負けたくない」 (3ページ目)

  • 佐野美樹●取材・文・撮影 text & photo by Sano Miki

 一方で、得るものが大きかった大会でもあった。

「57キロ級で戦えたことが、何よりも大きい。世界に出て、いい部分も悪い部分も見つかったけど、結果として優勝できた。点数とか内容はともあれ、次につながる試合になったんじゃないかなと思います」

川井は今回、日本女子チームのキャプテンを任命されていた。

「みんなのまとめ役というか、号令を出すだけなんですけど......」と照れたが、今大会で日本女子勢が金メダルを1個も取れていなかったことは、川井にとってプレッシャーになっていた。

 これまでの世界選手権では、日本女子勢の全階級メダル獲得は当たり前。金メダルラッシュは大会の風物詩のようになっており、他の国からうんざりされるほど君が代が流れ、日本は圧倒的強さを誇っていた。

しかし、今大会の金メダルは川井の1個だけ。日本が得意とする軽量級で五輪出場枠を逃すなど、目を疑うような結果となった。これは明らかに、世界のレベルが上がっていることを意味している。

 かつてはいくつかの強豪国で競い合っていたメダルマッチに、今大会は欧米だけでなく、中東やアフリカ、中央アジアなどの選手も加わり、表彰台に上がった国は多岐にわたっている。レスリングはもう、日本のお家芸とは言えない時代に来ているのかもしれない。

 それでも、日本の一縷(いちる)の望みとして金メダルを獲った、川井の女子チームへの貢献は大きい。

「頼りきりじゃいけない、自分も引っ張る立場にならなきゃいけないって思いました。引っ張ることができているかどうかはわからないですけど、自分自身は自覚を持ってできたと思っています」

そして最後に、川井はこう締めくくった。

「これまで本当に苦しかったけど、今までのレスリングをやってきた人生のなかで、すごく濃い一年、自分自身が成長できた一年だったと思います。リオの時よりは、メンタルは強くなったんじゃないかなと。

 でも、まだまだ通過点。世界にはいろんな選手がいるので、それを研究しつつ、自分のレスリングをしっかり見直して、五輪までの1年間を有効に使いたいなと思います」

 エースの自覚と、より強いメンタルを身につけた川井は、東京五輪までに今の自分を超えて、どれだけステップアップしていくのか。彼女のさらなる成長が楽しみである。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る