川井梨紗子の覚悟。「伊調さんに
勝ったからには、世界で負けたくない」

  • 佐野美樹●取材・文・撮影 text & photo by Sano Miki

 その「勝ちたい気持ち」は、初戦から溢れ出ていた。

 川井は1回戦、モンゴルのチェレンチメド・スヘーを38秒テクニカルフォールで仕留めると、その後も無失点で勝ち上がっていく。準決勝は手足の長いナイジェリアのオヅナヨ・アデクオロイに少々手こずるも、果敢に攻めて勝利。決勝に駒を進めてメダル確定となり、この時点で東京五輪出場が内定した。

 迎えた決勝の相手は、中国のロン・ニンニン。昨年の世界選手権57キロ級チャンピオンで、成長著しい22歳の若手だ。

 川井は序盤から攻め続け、次々とポイントを重ねていく。スコアは9-0。あと1ポイント取ればテクニカルフォールで優勝......という状況まで持ち込んだ。しかし、タックルに入ろうとした時、相手のカウンターを食らって大きく失点。その後は冷静に相手の動きを見極め、最後は9-6で試合を締めくくった。

 試合後、コーチのもとにゆっくり歩き出すと、ずっと胸に秘めてきたさまざまな気持ちを表に出すことを自分に許したのか、堰(せき)を切ったように川井の目から涙が溢れた。国旗を広げてマットを一周すると、そのまま国旗をまとい、泣きじゃくりながらコーチと喜び合った。

 その後、ミックスゾーンに現れた川井は、「ちょっと泣きすぎちゃったかな」と照れた。

 涙の理由は、ひとつでは語れないだろう。安堵、悔しさ、今まで過ごしてきた日々の思い......。記者からその訳を聞かれても、川井は「言葉にするのが難しい」と、繰り返し謝っていた。

 しかし、ようやく口から発せられた言葉は、試合の反省ばかりだった。

「決勝では9点まで来たので、あと1点取って決めたかったですけど、中国の選手の力強さで6点取られてしまった。無理やりいこうとした詰めの甘さというか。もっと丁寧にやらなきゃいけないところで、変に飛び込んでしまって、最後の最後に返された。これが東京(五輪)じゃなくてよかった。決勝戦が反省としては一番大きいと思います」

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