井上尚弥がWBSS後に「悪童」ネリと戦う可能性はあるのか (3ページ目)

  • 杉浦大介●取材・文 text by Sugiura Daisuke
  • photo by Kyodo News

「問題児が大舞台に立つべきではない」といったような感情論ではない。ビジネス色が強いアメリカのプロボクシング界において、ネリを看板商品にするにはリスクが大きすぎるのだ。

 今回のようにペイ・パー・ビュー(有料コンテンツに料金を支払って視聴するシステム)のアンダーカードならいいが、井上との対戦となれば、軽量級としては高価なカードになる。おそらく中規模興行のメインか、セミファイナル扱い。そんな重要な枠で起用するには、体重超過に罪の意識を感じないネリはあまりにも危険だ。再び大幅な体重オーバーで現れ、興行を滅茶苦茶にされてしまうことも十分に考えられる。

 最近では、4階級制覇王者エイドリアン・ブローナー(アメリカ)も同様の問題を抱えながら、『HBO』、『Showtime』のメインイベンターとして起用され続けた。毀誉褒貶(きよほうへん)の激しいブローナーは常に高視聴率が稼げる人気選手だったからだ。

 しかし、いかに日本との間に因縁が存在し、井上にとって最大級の相手だとはいえ、英語がしゃべれない軽量級選手のネリにそこまでの商品価値はない。興行主側はリスクを冒してまでネリをビッグイベントに起用するとは思えない。そう考えていくと、井上との対戦がアメリカ国内で組まれる可能性は低いと言わざるを得ないのだ。

 才能に恵まれたネリに、規律が伴っていないことは残念だ。外国人選手がアメリカでスターになるためには、周辺階級にライバルがいることが必須。その宿敵はアメリカ人かメキシコ人が望ましい。パッキャオに、マルコ・アントニオ・バレラ、エリック・モラレス、ファン・マヌエル・マルケスのようなメキシカンのライバルがいたのと同じように、井上にもボクシング王国から熱い支持を受けた宿敵がいれば......。

 もちろん可能性が低いからといって「絶対に不可能」ということではないし、1年後にはネリの状況も変わっているかもしれない。しかし、問題児の素行が劇的に変わることは想像しがたいのも事実。だとすれば、やはりネリを今後の井上の"ダンスパートナー"の候補に入れることは得策ではない。本格的な米国進出を望むなら、"ザ・モンスター"はネリ以外のライバルを探し求める必要があるだろう。

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