川井梨紗子に惜敗。それでも、伊調馨の戦いはまだ終わっていない (3ページ目)

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 大会前、姉は「勝っても負けても、馨が心から"ありがとう"と言える試合をしてもらいたい」と語っていたが、最後まで妹からその言葉は出なかった。

 全日本選抜後、姉は小さな子どもを連れて青森から上京し、妹を支え続けた。

「何かしてやりたいけど、ずっとできなかった。そんな無力のままでいるのは嫌だったから、馨の側についていてあげて、食事や洗濯をしました。レスリングのアドバイスはできないですけど」

 試合直前、マットに上がる妹に、姉は観客席から声をかけた。

 たったひと言。「みんないるよ!」。

 試合後、家族や友人、ALSOKの仲間が待つスタンドに上がってきた伊調に、姉は必死に涙をこらえ、声をかけた。

「この1年、よくがんばった。カッコよかったよ」

 9月にカザフスタンで行なわれる世界選手権で川井が6位以上となれば、日本は女子57キロ級の東京オリンピック出場権獲得となる。そしてメダルを獲得できれば、川井が東京オリンピック代表に内定する。

 ただ、現役世界チャンピオンの姉・梨紗子と比べ、妹・友香子が世界選手権でメダルを逃す確率は決して低くない。記者から「その場合、62キロ級へ転向してオリンピックを目指すか」と質問された伊調は、「考えていません。今は(57キロ級で)待つ身」と答えた。

 可能性は、限りなく低いかもしれない。それでも、前人未到のオリンピック5連覇を目指す伊調の戦いは、まだ終わっていない。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る