川井梨紗子に惜敗。それでも、
伊調馨の戦いはまだ終わっていない
大会前、姉は「勝っても負けても、馨が心から"ありがとう"と言える試合をしてもらいたい」と語っていたが、最後まで妹からその言葉は出なかった。
全日本選抜後、姉は小さな子どもを連れて青森から上京し、妹を支え続けた。
「何かしてやりたいけど、ずっとできなかった。そんな無力のままでいるのは嫌だったから、馨の側についていてあげて、食事や洗濯をしました。レスリングのアドバイスはできないですけど」
試合直前、マットに上がる妹に、姉は観客席から声をかけた。
たったひと言。「みんないるよ!」。
試合後、家族や友人、ALSOKの仲間が待つスタンドに上がってきた伊調に、姉は必死に涙をこらえ、声をかけた。
「この1年、よくがんばった。カッコよかったよ」
9月にカザフスタンで行なわれる世界選手権で川井が6位以上となれば、日本は女子57キロ級の東京オリンピック出場権獲得となる。そしてメダルを獲得できれば、川井が東京オリンピック代表に内定する。
ただ、現役世界チャンピオンの姉・梨紗子と比べ、妹・友香子が世界選手権でメダルを逃す確率は決して低くない。記者から「その場合、62キロ級へ転向してオリンピックを目指すか」と質問された伊調は、「考えていません。今は(57キロ級で)待つ身」と答えた。
可能性は、限りなく低いかもしれない。それでも、前人未到のオリンピック5連覇を目指す伊調の戦いは、まだ終わっていない。
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