川井梨紗子に惜敗。それでも、
伊調馨の戦いはまだ終わっていない

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 逆転したあとは、残り時間と得点差を冷静に判断したに違いない。全日本選抜では「終盤で逃げ続けて警告を取られても、1点差で勝ち切れる」。プレーオフでは「ラストで場外へ出されても、バックを取られずテイクダウンされなければ、同点で勝てる」。

 伊調との対決を避けて、リオデジャネイロオリンピックでは階級アップせざるを得なかった。川井はその雪辱を果たすとともに、東京オリンピックの代表権を力強くたぐり寄せた。

 試合後、伊調が「梨紗子が強かった」と認めたとおり、川井には接戦をモノにする力があった。3歳下の妹・友香子(62キロ級/至学館大)と一緒にオリンピックに出場する、という川井の執念はすさまじかった。

 一方、伊調は試合後の会見で涙を抑えながら、「"自分が弱かった"とは言いたくない。それでも、悔いはない。やるだけのことはやった。ギリギリの勝負を望んで、復帰した。挑戦できた」と言い切った。

 だが、会見場から離れたところでは、姉・千春に「悔しい」と告げていた。

 伊調サイドとしては、全日本選抜に続き、今回も後味の悪い試合となったことだろう。自分が相手の足首や手首を取り、コントロールして返してもポイントが認められない。グラウンドで技を仕掛けにいって、「さぁ、ここから!」という時に膠着状態と見なされ、レフェリーがホイッスルを吹いてブレイクさせる。

「何点獲ったら勝てるのか。なぜ、続けさせてくれないのか」

 納得のいかない伊調は試合中、何度も首をかしげた。

 セコンドも審判団にアピールした。「笛が早過ぎる!」「もっとちゃんと見ろよ」。

 彼らが発した言葉はレフェリーへの暴言と見なされ、全日本選抜では大橋正教ALSOK監督にイエローカードが出され、プレーオフでは田南部力コーチが退場となった。

 田南部コーチは「あれじゃ、選手は心が折れる。集中力どころじゃない」と言ったが、伊調はコーチがマットから退かされると、闘争心に火をつけて猛攻に転じた。しかし、時すでに遅し。逆転はならず、東京オリンピックへの道は遠のいた。

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