伊調馨は気持ちで負けた。「相手との感覚が掴めない。だから、怖い」 (2ページ目)

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 そして、レフェリーのホイッスルが鳴り響く。運命の一戦が、ついに始まった。

 だが、伊調は攻め込めなかった。手さばきだけの探り合いが続き、川井の懐(ふところ)に攻め入ることができない。

 一方の川井も、昨年12月の対戦で「今の自分なら、"あの"馨さんからでもポイントを奪える」と自信を得たはずだったが、伊調の動きを牽制して動けず。結果、消極的と判断されたのは伊調のほうで、第1ピリオドは川井の1得点のみで終了した。

 第2ピリオド。早々に仕掛けてきたのは、川井だった。すかさずタックルに入り、伊調の右足を抱えることに成功する。だが、世界ナンバー1と評される伊調のディフェンスは固く、得点には至らない。

 すると40秒過ぎ、またしても攻め込んだのは川井で、伊調の右足首をキャッチ。まずは確実に2点を獲得し、さらにローリングの連続攻撃で2点を重ねた。

 このままでは終われない――。5点リードされたところで、ようやく伊調の魂に火がついたか。まずは素早いスピードでバックにまわって2点を獲得。さらにはマット際の看板をなぎ倒す勢いで川井を弾き飛ばして1点を加えた。一気に伊調ペースへと引っ張り込み、たちまち2点差とする。

 しかし、反撃が遅すぎた。逃げる川井が警告を受けて4-5となるも、残り時間はわずか。残り2秒で川井を場外へ押し出したが、すでにタイムアップで最後の得点は認められなかった。

 試合後、敗れた伊調はプレーオフへ向けて次のように語った。

「こっちにアドバンテージがあった分、負けられない梨紗子の思いのほうが勝っていた。落ち込んでいる暇はない。ギリギリの戦いですが、それを望んで戻ってきましたし、いかにそれをやりがいと感じて楽しくやるか。レスリングが好きで戻ってきたので、反省して、修復して、しっかり準備します」

 伊調は敗因を、「気持ちの差」だと語った。試合前に「勇気を持って攻めろ!」と告げていたALSOK大橋正教監督は、現在の伊調についてこう語る。

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