村田諒太とは違う伊藤雅雪の状況。アメリカで再脚光を浴びられるか (3ページ目)

  • 杉浦大介●取材・文 text by Sugiura Daisuke
  • photo by getty Images

「今日は本当に失望しました。僕も『ここから』と思っていたので、当たり前ですけどなかなか切り替えられないですね。もっとビッグファイトをしていきたかったので、簡単にまた同じポジションまで戻れるかといったら、すごく難しい世界だと思う」

 近年、アメリカを拠点にトレーニングを続けてきた伊藤は、この国でのビジネスの流れを熟知しているようだった。

 しかし、もちろん希望が潰(つい)えたわけではない。もともとトップランク社が伊藤と複数戦契約を結んだ背景には、契約選手の中でもエースとして期待をかけるワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)、メキシカンにファンを持つベルチェルトの周辺に強豪を配置しておきたいという意図があったはず。契約は敗北とともに無効になるのが通常だが、伊藤も北米の関係者に名前を知られただけに、何らかの形でまたチャンスが与えられる可能性は十分にある。

 特に最近のボクシング界は、DAZNが本格参入したことで興行数が増え、逆に選手が不足気味。そんな状況下で、トップランク社には井上尚弥(大橋ジム)獲得の噂が流れるなど、日本人ボクサーを積極的に起用していることはご存知のとおりである。

 ヘリングに完敗した伊藤には、またチャンスが舞い込むとしても、次の注目ファイトでは完全な"Bサイド(相手役)"だろう。条件的にヘリング戦よりさらに厳しい戦いの中で、"Aサイド(主役)"を食って再び這い上がらなければいけないということ。もちろん簡単ではないが、アマチュア歴がなく"ボクシング年齢"が若い伊藤は、依然として大きな伸びしろを残しているだけに、今後のさらなる成長に期待したい。

 繰り返すが、伊藤本人が認めているとおり、この敗戦でアメリカで名を上げるのが極めて難しくなったことは間違いない。そんな厳しい立場から這い上がる気概が、日本の好漢に残っているかどうか。"アメリカの壁"に屈した今は、ゆっくりと身体を休めてほしい。そして、願わくば近いうちに立ち上がり、再び"アメリカンドリーム"に挑んでくれることを楽しみにしたいところだ。

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