井上尚弥がパッキャオなみの「世界的スター」になるために必要なもの

  • 杉浦大介●文 text by Sugiura Daisuke
  • photo by Reuters/AFLO

「ナオヤ・イノウエを見たか?」

 現地時間5月18日、スコットランドのグラスゴーで行なわれたワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)バンタム級準決勝の後、アメリカのボクシング関係者の間でもそんなセリフが合言葉のようになった。

 同日にはブルックリンでデオンテイ・ワイルダー(アメリカ)対ドミニク・ブリージール(アメリカ)のWBC世界ヘビー級タイトル戦が行なわれたが、その会場でも話題の中心は"イノウエ"。WBA世界バンタム級王者・井上尚弥(大橋ジム)がIBF同級王者エマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ)を2ラウンドで粉砕したパフォーマンスは、それほど衝撃的だったのだ。

WBSS準決勝で2回KO勝ちを飾った井上WBSS準決勝で2回KO勝ちを飾った井上 米ボクシング界が"イノウエ"で沸き返ったのは、筆者の知る限りこれが2度目になる。1度目は2014年12月30日のオマー・ナルバエス(アルゼンチン)戦で、井上はWBO世界スーパーフライ級王座を11度も守ってきた2階級制覇王者を2ラウンドで一蹴した。以降、主にアメリカ東海岸で取材活動を続ける筆者も、「君の国からすごい選手が出てきたな」と盛んに声をかけられるようになった。

 あれから約4年半。日本開催でYou Tube以外に視聴手段のなかったナルバエス戦と違い、ロドリゲス戦はアメリカ国内でも午後の時間帯にDAZNで生配信された。そのおかげで、インパクトもより大きくなったのだろう。

 元世界2階級制覇王者で、現在はアメリカの有料チャンネル『Showtime』で解説者を務めるポール・マリナッジはこう述べた。

「とてもエキサイティングなファイターだね。爆発力、スピードがあり、パワーだけでなくしっかりとしたスキルも備えている。単にパワーパンチを振り回すだけでなく、事前にトラップをしかけているからそれが生きているんだ」

 威勢のいい語り口で知られるマリナッジだが、"イノウエ"の名前を出した途端、「Oh boy......」と呆れたように首を振る仕草を見せたのが印象的だった。この日、井上の底知れぬ強さを見たものにとって、そんなジャスチャーは理解できるものだったはずである。

 ロドリゲス戦の勝利で8連続KOとなった井上。とくにバンタム級に階級を上げて以降の3戦では、すべて2ラウンド以内に相手を倒したことになる。そのパワーは驚異。最近では比較対象としてマイク・タイソン(アメリカ)、マニー・パッキャオ(フィリピン)といった歴史的ビッグネームも挙げられ始めている。

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