武藤敬司の復帰戦は長州力の引退試合。「どうなるか。出たとこ勝負」 (2ページ目)

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji
  • photo by Hiraku Yukio/AFLO

 その数日後に手術を行なってから1年。リハビリも順調に進み、4月6日にはアメリカのインディー団体「HOG」のニューヨーク大会で、まずは"グレート・ムタ"として復活した。さらに同日夜、古巣の新日本プロレスが初進出したマディソン・スクエア・ガーデンでのビッグマッチで、"第0試合"の31人参加の時間差バトルロイヤルに大トリで降臨。ムタは日米のファンにビッグサプライズを起こした。

 そしてとうとう、"武藤敬司"としての復帰が目前に迫ってきた。人工関節を入れた両膝、56歳という年齢を考えても、待ち受けるのは茨の道かもしれない。

「オレ自身、厄介だということはわかってる。だけど、21歳で新日本に入って、ここまでプロレスラーとして生き続けてきて、この生活を今さら変えたくないんだよね。朝起きて、飯食って、練習して、午後は仕事して、また練習して。夜はワインを飲んで、そして試合があるから、そこに向けて気持ちと体を高めていく。このサイクルが体にしみ込んでいるから、このルーティーンを変えたくねぇんだよ。

 もし変えちまったら、オレの人生そのものが終わっちまうような気すらしている。本当のところは、どこまでできるかわからない。だけど今は、『プロレスラーとして生涯をまっとうしよう』という思いしかないんだ」

 さまざまな困難は覚悟の上。それでも"全身プロレスラー"とも言うべき生き様を変えられないことが、武藤を再びリングへ向かわせる礎となった。6月26日の復帰戦は藤波辰爾、真壁刀義と組み、引退試合となる長州力、越中詩郎、石井智宏と対戦する。復活の相手がリングを去る"革命戦士"というのも運命を感じる。

「復帰する試合で、辞めていく長州さんと戦うっていうシチュエーションが面白いなって思ってさ。どうなるか。出たとこ勝負ですよ」

 いたずらっぽい目で復帰戦をにらんだ武藤は、また何かファンを驚かせようとたくらんでいるようにも見えた。

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