まさかの敗北。伊調馨が這い上がるためにいま、思い出すべきこと (3ページ目)

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

「点を取られたのにガムシャラに取り返そうと攻め込む闘争心が、今日の伊調からはまったく感じられませんでした。山本聖子さんや正田絢子さんらと勝ったり負けたりして、もがいていた若い頃を思い出してほしい。

 技術に走り過ぎて置き去りにしてきたかもしれないですが、技術うんぬんの前に、まずは相手を倒すという気合いです。レスリングは格闘技ですから。伊調は今、自分がレスリングを始めた頃の原点に戻ることが必要でしょう」

 2016年、オリンピックイヤーに入った直後の1月、それまで連勝街道を驀進していた伊調はヤリギン国際大会でまさかの黒星を喫した。レスリングを極め、新しいレスリングを開拓しようとするがあまり、自分を見失ってしまっての敗戦だった。

 だが、その時、伊調は言い切った。

「この負けはチャンス!」

 そして7カ月後、リオの大舞台で女子初のオリンピック4連覇を達成した。

 伊調なら、必ず、もう一度、やってくれる。

 パワハラ問題をはじめ数々の難関を乗り越え、年齢の壁を打ち破り、伊調は再び戦うことを決意した。女王のプライドをかなぐり捨て、前人未到の「オリンピック5連覇」へ向けて這い上がる壮絶なドラマは、まだ始まったばかりだ。

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