ドリームマッチの真実。王者・田中恒成はなぜ田口良一を指名したのか (2ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by Kyodo News

 たとえば、僕はいつまでも『漢気(おとこぎ)のあるマッチメイク』を組めるボクサーでいたい。僕がプロ4戦目で東洋太平洋のベルトをかけ、原隆二さん(大橋)に挑戦させていただいた試合は、何者でもなかった僕にとって、挑戦を受けていただけたのはメリットしかないんです。逆に原さんには、メリットがまったくなかった。それでも、『やりましょう』と承諾してくれた。

 ボクシングのマッチメイクは、ジムが断ったのか、選手が断ったのか、表には出ない部分があります。もちろん、ビジネスという側面もある。ただ僕は、いつか何の実績もない若手が『やりましょう』と言ってくれた時に、メリットがあるかないかで二の足を踏む選手にはなりたくない。どんな時でも、『じゃあ、やりましょう』って心意気を持っていたい」

 そして、だから田口との一戦は、「漢気のあるマッチメイクではない」と言う。

「だって、僕にもメリットがありますから。勝ってもベルトが増えない? 田口選手に勝つ。それだけで十分じゃないですか」

 一方、オファーを快諾した田口だが、田中が強敵というだけでなく、オイシイだけの対戦ではないことを十分理解している。

 この試合はデビュー以来、ライトフライ級一筋だった田口にとって、初めてのフライ級での試合。できることなら一度、ノンタイトル戦をはさみ、試運転したかったのが本音だろう。しかし、田口は首を横に振る。

「正直、フライ級の感覚を掴むために一戦してみたかったというのは確かにあります。でも、僕がボクシングを通じて学んだのは、チャンスはそう簡単にやってこないということです。一戦はさんだら、きっと状況は変わっている。チャンスは掴める時に、掴まなくてはいけない」

 そして、田中と同じく、この試合を行なうことが、田口にとってのイズムだ。

「小学生時代のいじめられっ子だった経験からか、僕は自己肯定感が低いんです。同時に認めてもらいたいという承認欲求が人一倍強い。ボクシングで強さを認めてもらうのは、強い相手に勝つしかない。ファンの人はちゃんと見てますから、弱い相手とばかりやって作られた成績では認めてもらえない。

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