田中恒成vs田口良一。一度は白紙も奇跡の実現へ。その軌跡を追う (3ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by AFLO

 そして同年大晦日、WBO世界ライトフライ級王座決定戦でモイセス・フェンテス(メキシコ)にTKO勝ちを収め、プロ8戦目での2階級制覇を達成。2017年5月に初防衛にも成功し、勝利者インタビューの最中、「田口選手、よかったらリング上にお願いします」と、ゲスト解説を務めていた田口をリングに呼び込んだ。

 突然の申し出だったが、この時、田口からは微笑みがこぼれている。

「もしかしたら呼ばれるかもしれない、と思っていたら本当に呼ばれたんで、つい笑ってしまいました」

 そして田中の「今年中にやりましょう!」との呼びかけに、田口は「次、自分がいい内容で勝ったら、ぜひ」と応じ、会場のみならず全国のボクシングファンを歓喜させた。

 同年7月、田口は6度目の防衛をTKOで飾り、田中とのビッグマッチが実現に向け、一気に加速していく。

 しかし、ここから運命の歯車はズレ始める――。

 2017年9月、勝者のはずの田中の表情が、敗者のように歪んだ。パランポン・CPフレッシュマート(タイ)と対戦し、9回1分27秒TKO勝ちで2度目の防衛に成功したものの眼窩底骨折と診断され、大晦日の田口との対戦にドクターストップがかかってしまう。

 試合翌日の会見で、田中は「ケガをしていなければ試合ができた。田口選手に申し訳ない」とうなだれた。さらに後日、田中は名古屋から東京のワタナベジムに出向いて、田口の出待ちをして対戦が白紙になってしまったことを直接謝罪したという。

 対戦が叶わなかったことを、田口は「ビックリでした」と振り返るが、「白紙になってモチベーションが一度は落ちたんですが、しばらくしてIBF世界ライトフライ級王者ミラン・メリンド(フィリピン)との統一戦が決まり、気持ちの面で立て直しはできました」と再び前を向いた。

 田口はメリンドに判定勝ちして統一王者となり、2018年3月には田中が復帰戦をTKOで勝利。再び、両者は拳を交える機会が訪れるかのようにも思われた。しかし同年5月、ヘッキー・ブドラー(南アフリカ)と対戦した田口が判定負けを喫し、3年半もの間保持し続けたWBA世界ライトフライ級のベルト、さらにメリンド戦で手にしたIBF王者のベルトをも失ってしまう。

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