非エリートボクサー高橋竜平、王者に完敗。
それでも絞り出す希望の言葉

  • 杉浦大介●文 text by Sugiura Daisuke
  • photo by Kyodo News

 ただ......アメリカでは諸事情で直前に試合が決まることも決して珍しいことではない。プロとして契約書にサインした以上、調整期間云々はエクスキューズにはならないし、お金を払って会場に試合を観に来るファンにも関係のないこと。そして、力のある選手はそんな悪条件下でも何とかしてポテンシャルをアピールし、キャリアアップにつなげていくものだ。

 昨年12月22日にブルックリンで開催された世界ミドル級戦では、本番5日前に代役挑戦が決まったマット・コロボフ(ロシア)が、王者ジャモール・チャーロ(アメリカ)に大善戦。最終的に判定で負けたものの、"緊急登板"で評価を上げる結果になった。負けても好試合をすれば商品価値は上がるもので、コロボフにはまた遠からずうちにビッグチャンスが訪れるだろう。

 そんな例と比較しても、今回の高橋の戦いぶりは「もっと準備できていれば」と周囲に可能性を感じさせるものではなかった。本人の言葉どおり、スキル、パワー、スピードをはじめ、スタミナ以外のすべての面で相手に劣ったうえでの完敗。観客を沸かせる見せ場を作ることもかなわなかったという意味で、アメリカでの近未来につながる戦いでなかったことは受け止めなければなるまい。

 挑戦者の名誉のために付け加えておくと、今回の試合前後、高橋は言い訳めいたことは一切口にしなかった。自身の実績不足を潔く認め、懸命に準備する姿は好感が持てた。悔しいTKO負けのあとも冷静に自己分析し、「準備期間不足」「深いカットの影響」といったメディアからの問いかけには一切耳を貸さなかった。

 多くのボクサーたちは、痛恨の敗戦後にえてして自身の本質を晒すもの。決してブレがなかった高橋の真摯な姿勢は、その人間性をわかりやすい形で示していた。試合直後に自己分析できる聡明さも備えているのだから、今回の完敗からも何らかの形でポジティブな部分を見出していくことは可能なのかもしれない。

 東洋大学ボクシング部時代は準レギュラーで、アマチュア時代の成績も10勝10敗と平凡だった高橋は、プロデビュー戦で初回KO負け。以降はハイペースで勝ち続け、IBFの下部タイトルを奪うも、いわゆるエリートのプロスペクトと目されたことはなかった。そして今回、昨年9月の結婚後に初めて迎えたリング登場でも新たな挫折を味わうことになった。

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